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 幸子は、自分の机の前から椅子を持ってきて、二人の前に座った。しかし彼女の浮かない顔に正雄は気がついた。

「どうかしたの。何か気になる事でもあるの」

「ううん。いいんです。今じゃなくて。アランに帰ったら話します。今はランと約束したから、勉強しましょう」

「そう言われても、なんだか、こっちが気になるよ。やっぱり相談事は、早いほうがいいんじゃないか?悩んでいると、午後からの仕事にも差し支えるし。
ラン、ちょっと悪いんだけど、少しの時間待ってくれる。サッチャンの話を聞いてあげたいから」

「いいわよ」

 ランは一言だけ返事をして、隣りの部屋に去って行った。

「あのー、さっきソムサックさんと話をしたんです。気になる事があって。
 マサさんは、気になりませんか、最近のコボチャンの事。私、ずっと心配してるんですけど、なかなかマサさんに話す機会が無くて、どうしようかなって思ってたんです。
 先月の事故以来、コボチャンよくお酒を呑みに行くでしょ。呑むだけなら良いけれど、最近とっても痩せてきてるし。
もしかしたら、あの事故の事、まだ何か気にしすぎているのかなって、思うんです。
 例えば、私が隣りに乗っていたのが、関係するとか。そんなこと無いですか?
 私、ここに運ばれてくるまで、ほとんど意識が無かったでしょ。だから、彼に悪い事でも言ったかもしれないとか。いろいろ考えちゃうんです。でも、コボチャンに直接聞けなくって」

「うーん。実は俺も、気にはしていたんだ。俺が酒好きなのを知っているのに、彼が飲みに出かける時に、一度も誘わないだろ。確かに、痩せてきてるしな」

 「それでね、さっきソムサックさんに、いろいろ聞いてみたんです。でも、彼、なんにも話してくれないんです。
 それになんかニヤニヤしちゃって、変な感じだし。それで今、よけいに気になりだしちゃったんです。やっぱりあの日、何かあったような気がするんですけど」

更新日:2011-08-07 11:26:06

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