• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 16 / 228 ページ

最初の現実

タイの首都バンコクで彼ら三人は、約一ヶ月間の研修を受けた。
それぞれの仕事に関する内容や、インドシナ難民の歴史と現状、そしてタイ語会話やタイの文化習慣などについてだ。
この学びが終わるころ、蓮根と幸子には難民キャンプで働く為の許可証がタイ政府から発行された。
ところが、正雄の許可証の発行が遅れている。その理由についてはまったく知らされなかったが、正雄は自分の過去の仕事が原因で詳しい身元調査がされていたのかもしれないと、謎めいた事を言って喜んでいる。
幸子はそれが冗談なのか、それとも本当に過去になにかをやってしまったのかを知りたがったが、蓮根が冗談だと決め付けると、それ以上は詮索しなかった。

研修が完全に終わると、正雄をバンコクに残して二人はアランヤプラテートの町へ旅立った。

常夏の国タイでは、長距離バスは大きく二種類ある。エアコンが付いている高級バスと、窓ガラスもドアも無く、自然の風に吹かれながら砂ぼこりにまみれる通常のバスだ。
蓮根と幸子はエアコンバスに乗り、カンボジアとの国境の町へ向って出発した。二人は窓の外を見ながら、会話を弾ませる。
大都会バンコクと異なり、途中で通過する町々には2階建て以上の建物はまったくない。しかも数分で通り過ぎてしまうような小さな町ばかりだ。どんな小さな町や村でもその周りには広大な田んぼや畑がある。そのいたるところでは水牛を使って農作業をしている。ちょうど田を耕す時期だった。

エキゾチックな風景と共に、約七時間が過ぎ、やがてバスは終点アランの町に着く。バスから降りる人々は皆、大きな荷物を抱えている。出迎えの人々はバスを取り囲み、降りてくる乗客の荷物を受け取り、再会を喜ぶ笑い声にあふれた。

蓮根と幸子がバスから降りると、彼らに歩み寄ってくる色黒の人物がいる。

更新日:2011-08-06 10:32:13