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敵味方四対一という圧倒的に不利な状況であったのだが、このとき奇蹟は起こった。ネルガル派四個軍団艦隊の背後からさらに別の五個軍団艦隊が現れたのだ。
 ──われらは銀河帝国武装中立連合軍艦隊です。これより選帝侯ギルガメッシュ殿下にお味方いたします。われらは一部始終をみておりました、杉の木に変えられた老人に殿下が〈クリスタルの滴〉を分け与えられたことも……。慈悲深いあなた様こそ銀河帝国三世皇帝にふさわしい。
 旗艦にいた〈兎〉のギルと〈猫〉のエンが顔を見合わせていると、しばらくして第五艦隊全体に歓声があがった。形勢は敵味方四対六に逆転し、しかも挟み撃ちにする形になったため、パニックとなった敵側からは離脱したり降伏したりする艦船が続出した。
 他方──
 クレーターである〈ウトナピシュティムの扉〉からしばらく降りると、小惑星ほどの大きさはあろう墓所の巨大な空洞に達する。墓所の壁は発光性の鉱物で飾られており、内部に突入した〈月の王〉ネルガルとサングラス〈猫〉フンババ、それに巨神ダイダラムの三者は、ふわふわと漂いながら降りていった。
 やがて空洞底部に達すると、玉座にもたれた長い髭を伸ばした〈白兎〉がおり、意外なことをネルガルに告げた。
 ──わが子孫ネルガルよ。〈スーパー・クリスタル〉を求めにきたのであろうが、そのようなものはここにはない。〈スーパー・クリスタル〉が何であるかを考えようともしなかったおまえに、三世皇帝を名乗る資格はない。
 〈月の王〉ネルガルが、
「そっ、そんな馬鹿な!」
 といいかけた。途端、がらがら、と天井が崩落してきたではないか。月面に砂埃が舞い上がり巨大な窪(くぼ)みができ、巨大な兎の形となった。こうして〈月の王〉ネルガルたちは祖先の墓所で永遠に封印されてしまったのだった。
 仏教説話に、次のような場面があるのをご存じだろうか?
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 飢えた旅人が森にたどり着いて焚き火をしていると、哀れんだ動物たちは次々に食べ物を持参してやってきた。熊は蜂蜜を、虎は肉を、猿は木の実を……。最後にやってきた兎は、
──私はあなた様に何もお与えするものがありません。せめて私の肉を召し上がってください。
 と叫んで焚き火に飛び込んだ。感じいった仏は兎を天に召して月に住まわせ永遠の生命をお与えになられた。ゆえに月にあるシルエットこそ、その兎であるのだ……と。
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 舞台は再び榛名富士の頂き近くに戻る。

更新日:2009-06-28 14:45:44

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