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小説

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Ⅴ 月の王ネルガル

 ……夜はまだ明けていない。夢が終わったとき、僕を挟んでベッドで眠っていたはずの〈兎〉のギルと〈猫〉のエンの姿がないことに気づき、がばっ、と半身を起こした。ドアの向こうで声が聞こえる。
「いよいよ決着をつけるときがきましたな、マイロード」
「エンキドウ、巨神ダイダラムが、そろそろ榛名富士の火口近くに着いた頃か……」
「マイロード、宗司に別れの言葉をかけなくてよいのですか?」
「寡人は戻ってくる。別れの言葉は必要か?」
「そうでしたな」
  ──決着? 〈兎〉のギルと〈猫〉のエンとはもう会えなくなるの?
 〈兎〉のギルと一緒に二階の廊下にいた〈猫〉のエンは、サーベルを抜いて宙に8の字の放物線を描き空間に黒い穴をあけると、そこに飛び込んだ。続く〈兎〉のギルは一度、僕の部屋を振り向き、中へ飛び込みかけた。
「ギル君、行っちゃ嫌だ!」  
 僕は、〈兎〉のギルに飛びついた。刹那──
(おいおい、宗司──〈クリスタル〉は〈クリスタル〉を呼ぶ。宿命か……) 
 抱きつかれた〈兎〉のギルは、僕の頭を撫でてそんなことをいった。

 暗闇のトンネルを抜けて、僕らが出てきたのは、火口丘である榛名富士の頂であった。背後には、夜は動かないロープウエイのホームがある。ロープウエイ路線の下側は整備されており、比較的なだらかな斜面となっており、その道筋をたどって巨神ダイダラムは、僕らのいる山頂に迫ってくる。
 月夜に照らされた巨神ダイダラムの肩にはサングラス〈兎〉のフンババが乗っていた。フンババは、
 ──月満つる夜、〈月の王〉きたりて手をさしのべ、ダイダラムは天かける。
 といった。僕には意味はよく判らないが、〈兎〉のギルと〈猫〉のエンには判っているようだった。榛名富士が激しく揺れだした。
「ギ、ギル君、地震だね──」
「フンババが、〈月の王〉を呼び出したんだ」
 揺れのためだろうか僕は、満月から一条の光が降りてきて、サーチライトのように僕らのいる山頂を照らしているかのような幻をみた。そのときだった。照らされた火口の縁を無数の白兎が輪を描いて行進するのを目の当たりにしたのは……。兎たちは、ごーんごーん、と銅鑼を叩き、意味不明の唄を唱いながら、ぴょんぴょん、と踊っていた。
 ──目覚めて百億はるか朝、光、イメージはその奥……。
「なに、これ?」
「ネルガル──〈月の王〉だ」
 〈兎〉のギルはそういった。

更新日:2009-06-28 14:31:11