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小説

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Ⅳ 人類最強戦士の休日

 榛名神社での戦いの後、おじいさんはジープで別荘まで引き返した。あれから大きな騒ぎになっていないようだったので、沙羅を家まで送り届け、僕らも休むことにした。二階の部屋のベッドで、僕を挟んで〈兎〉のギル、〈猫〉のエンが並んで寝た。ギルは、
「よく頑張ったな、宗司。さあ目を閉じよう」
 といった。疲れていた僕はまたたくまに眠りについていくのを感じた。

 ……僕が東京から越してきて、おじいさんと過ごしはじめて印象深かったのは、なんといっても初めてカヤック(カヌー)に乗せてもらったときのことだ。
 カヤックに乗る前に、まずライフジャケットを僕に着せ、つぎにパドル(櫂)のなめらかな動かし方を教えてくれた。
 僕にライフジャケットを着せてから基本的なパドル(櫂)の扱い方を教えてくれた。
「パドルは自転車のペダルを踏むように回転させるのじゃ。こんな具合にな、パドルを、右、左と前に押すように漕ぐとよい。ほら、やってみなさい」 
 僕はいわれたとおりにやってみた。
「よーし、やればできるじゃないか。宗司は天才だね。さらにパドルの角度をもう少し斜めにしてやるとカヤックはもっと速く水面を滑っていくんだよ」
 おじいさんの教え方はとても上手だった。大人になってから、僕がそのことについて触れるとおじいさんは照れるように笑って、
「旧日本海軍の山本五十六大将が述べておられる。『やってみせてみせて、見てやって、褒めてやらねば人は動かん』とな。親切に判りやすく相手に伝えることだよ。相手が素人のときはもたつくもので、そんなときは根気よく教えてやるんだ。逆に相手が知っているときはきいてやるとよい。それが人付き合いってもんじゃ。当たり前のことだがね」
 といった。おじいさんのいう言葉は、学校の先生がいうよりもとても説得力があった。
 カヤックボートは別荘の倉庫に置いてある。おじいさんのカヤックボートはアクリル製で陽射しで痛むためなるだけ暗いところに保管しているのだ。倉庫に収められたカヤックは専用カートに載せられていて、そのまま湖の波打ち際まで運べるようにしてある。おじいさんを手伝って僕は、波打ち際に沿うようにカヤックを降ろした。
 おじいさんは次に乗船の仕方を教えてくれた。浜辺に横付けされたカヤックのコクピットからパドルを丁梁のように斜めにして船体を支える。
「船の最大の弱点は横側だ。横から力が加わると船は転覆しやすくなる。だからカヤックに乗るときはパドルで丁梁をつくって、まずパドルに座り、そこからコクピットに移るんだ。世の中には手順というものがある。目標を達成したいのなら手順をしっかりイメージすることが大事だ」
 そんなふうに、おじいさんが僕に話しかけるときはさりげなく、人が生きていくのに必要な知恵をおり混ぜ教えてくれていたような気がする。

更新日:2009-06-28 13:35:19