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異能の凡夫

 調べれば調べるほどに、私は氷室一夜という男がわからなくなった。

 確かに、履歴上の氷室は有能であり、誇りある一族の跡目であり御曹司である。
 氷室が、何を好きこのんで休暇を取ることすらままならぬ忙しい警視庁などで働いているのか、私には理解できない。
 それよりも、あのとき私に気付いていたはずなのに、氷室が私に関して調べている様子などまるでないことだ。
 もちろん、彼らの言うところの『魂の色』は見えたとしても、私の顔も名前もわからない。自分自身も多忙を極めている身なのだから、あの心中事件に関係あるかもと思っていても、手がかりが少なすぎる私への調査まで手が回らないのか。
 捜査一課での氷室一夜の評価は、氷室自身が出生を伏せているせいもあるのか、それほど高くはない。だが、持ち前の茫洋とした風貌は、時に凶悪犯ですら和ませる。解毒剤のような雰囲気から、場を和ます役割を買われているようだ。
 おそらくは、人の知らないところで何かしらの呪術的な真似をして、事件を解決に導いている可能性はある。
 ネットワーク上に私を調べている痕跡はなくとも、呪術のネットワークを調べる術は、残念ながら私にはない。
 サイバーネット上にある氷室のデータを頭にたたき込むと、私はベレッタを2丁と弾丸を持ち、黒のタイトスーツに着替えると、夜の街へと繰り出した。

更新日:2009-06-25 20:31:20

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