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*** Chapter 20 遺跡調査隊の人たち ***

「遺跡を被っていた土は、現在の腐葉土と同じ組成でごく最近のものなの。地層は単層でしょう。それだけだったら、せいぜい百年ぐらいの間に人工的な加工が行われたとしか言いようがないの。これだけの大工事をやったという記録はないし、地質調査も徹底してやったけど、大岩を隠し持っている丘なんてこの辺りに全く見当たらないし、近隣に同じような巨石群があるわけでもないし、深成岩自体は四十億年ぐらい昔のもので、どこから運んできたのかもわからない。運んできたというわけは、削りかすが全く見つからないのよね。同じ組成の深成岩の一欠片(かけら)も落ちていないわけよ。で、ね、誰かが運んできたと、なるわけ。出土品でも出れば、時代の比較検討ができるのに、今日まで、何も出土してないし。とにかく世界中に似たようなものは報告されていないから、まあ、お手上げ状態と言ったところね」
 かなり立派に建てられた二階建てのウレラマ遺跡発掘調査事務所の中で、ネイサの愚痴を一頻(ひとしき)り拝聴(はいちょう)したロウとオウリは、遺跡調査から戻ってきたエギ・ホリスが扉を開けたとき、なぜか救われた気分になった。エギを間近に見てロウは彼が何者かを思い出した。
 エギの後から、イガーナ・アマセナとフヤ・ナセーノが事務所に入ってきた。
「ネイサ、久しぶりだな。おっ、オウリじゃないか」
 エギが白髪の長い顎髭(あごひげ)を蓄えた赤ら顔を嬉しそうにほころばせた。喜んだのはイガーナやフヤも同じだった。
「生きていたのね。よかった」
「オウリよね。本当に、オウリよね」
 イガーナとフヤがオウリに抱きついて泣き出した。ネイサも側に来て泣いていた。
「無事だったのね」
「大変だったでしょう」
 ナボルにいたネイサと違い、彼女らはオナハの直ぐ隣のウレラマにいた。一昨日の夜にオナハが見舞われた災厄は肌身を以て知ることができた。
 赤々と夜空を焦がす劫火(ごうか)を高台のウレラマから確認できた。
 翌朝、見知った者たちが心配で灰燼(かいじん)と化したオナハに行ってみた。遺跡発掘の最盛期には五百人以上の人たちが作業を手伝っていた。大方の腐葉土が払われた後からは、オウリの仲間の学生たちが週末ごとに手伝いに来てくれた。
 五百人の作業員たちの印象は薄れてしまったが、学生たちは大切な仲間になっていた。彼女たちは、先生、先生と調査員たちによく懐(なつ)いていた。

更新日:2008-12-05 03:02:00

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