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*** Chapter 13 灰燼の中の美少女 ***

 早暁(そうぎょう)の空から黒味が抜けて濃い紫が東雲(しののめ)に滲み始めた。
 オウリは母の遺体に縋(すが)って、まだ泣き続けていた。
 未明に、食い千切られてばらばらに飛び散っていた母の身体を、オウリは嗚咽しながら集めてきた。千切られた左腕を身体に戻し、優しく撫でると腕は元のように母の身体の一部分となった。膝から下の左足、腿から食い千切られた右足、腰から胴にかけた部分。
 愛おしんでさすり続けた母の身体は、何事もなかったかのようにオウリの腕の中に抱きかかえられていた。
 低い山並みの上の空が白んできた。夜が明けた。
 北風が海に向かって吹いていた。いつもなら早朝から鳴き遊ぶ小鳥の囀(さえず)りは、この朝は全く聞こえなかった。
 焦げ臭さが辺り一面に充満している。瓦解した家々の影が黒々と浮かび上がってきた。
 学校のあるこの辺りは被害が少なかったらしい。
 けたたましい緊急警報音が遠くから聞こえてきた。
 紫色を帯びた濃い青色が中天を超えて広がり始める頃から、辛うじて禍害(かがい)を免(まぬが)れた人々が学校に集まり始めた。
 母の亡骸(なきがら)を抱きかかえて泣き明かしたオウリの傍らを、ぼろぼろに汚れた人たちが、一人、また一人と通り抜けていった。彼らの足取りは重く、目に生気はなく、声もなかった。
 昇ったばかりの陽光が冷え切ったオウリの身体を暖めた。
「大丈夫かい」
 人通りが多くなり、優しくオウリに声をかける者もいた。
 県府保安部の部員たちが人々を誘導し始めた。
「もう大丈夫ですから。校庭に行ってください」
「食事や水の用意もあります。暖かい外衣や毛布もお配りしています」
「怪我をしたんですけど」
「どれ。歩けますね。校庭に緊急救護所を設置しましたから、直ぐに行ってください」
 県府保安部員が通りの真ん中で座り込んでいるオウリをのぞき込んだ。
「大丈夫かい。さあ、学校に行って。お母さんは運んであげるから」

更新日:2008-12-05 01:57:49

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