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*** Chapter 33 会見 ***

「歩いて行こう」
 飛翔機に向かいかけたネイサをロウが止めた。
「まっ、まさか。本気なの」
 報道各社の記者に囲まれ、揉みくちゃにされながら、記録瓶を突きつけられて質問攻めに合っているオウリを顎で指して、それからネイサはロウを見た。ロウの決心が固いと知ると、両手を胴の横に広げ、彼女は口を歪めて肩を竦(すく)めた。
「仕方ないわね。好きにしたら」
 ロウとキルナが記者たちを掻き分けて輪の中に飛び込んで行った。押し潰されそうになっていたオウリを、二人は両腕を広げて庇(かば)った。
「押すな。押すなって。もっと、下がって。ほら、さがって」
 父の怒声が輪の中の揉み合いをネイサに想像させた。がんばってるじゃない。
 ネイサは側にあった椅子を見つけると腰を落ち着けた。歩いて行くと言ってもこの騒ぎは当分収まりそうになかった。
「本当にすごいことに、なっちゃったんだから。まだ、目が眩(くら)んでいるわ。だいたい、ロウもオウリも人捜しに来ておいて、なんでこんな事をしちゃうわけ。まあ、しちゃったから、しょうがないか。みんなも喜んでいるわけだし」
 ネイサがぶつぶつと独り言を並べ立てていると、いつの間にか、たった今奇跡を我が身で体験した被災者たちが、記者の輪の中に捕らえられたオウリを一目でも見ようとして集まってきた。にこやかに笑いながらネイサにも頭を下げ、礼を述べた。
「いえ、わたしは関係ないの。一般の人なの」
「これあげるよ」
 男の子が汚れた手を差し出した。手の平にはきらきら光る無色透明な玉が三つ揺れ動いていた。
「いいよ。いらないわ」
 男の子が悲しそうな顔になった。
「ありがとう。貰っておくわ」
 男の子の顔が笑った。
「でも、どうしてなの」
「お母さんが、元気になった。ありがとう」
「そう、よかったわね」
 手渡された玉は、温かだった。握りしめていた男の子の体温が残っていた。玉はネイサの手の平でころころと揺れて光った。
 ネイサはオウリが為したことの意味を理解した。
 報道各社の飛翔機が次々に飛来し、避難所の敷地に着陸してきた。灰燼(かいじん)がもうもうと湧き上がり、視界が閉ざされた。その灰燼の中から、大型の撮影機材を肩に背負った記者たちが駆け寄ってきた。
 ネイサは椅子から立ち上がった。彼女は男の子に貰った玉を下衣の袋にねじ入れ、二、三度袋を叩いて玉の存在を確認した。

更新日:2008-12-09 00:31:46

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