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*** Chapter 31 アムカ・ウォーニ ***

 ウォーニ家はツラナ王国の中でも、一番古い家系だった。ただ、伝承されている神話や歴史の中でウォーニという名前は悪魔と等しかった。だから、ウォーニ家は世の中に隠れるように正系を繋いできた。ウォーニという不吉な名前は隠し、シアーカ家として嫡流(ちゃくりゅう)を守ってきた。相伝は臨終の際に親から嗣子(しし)に口授され、新しい家長は家督と共にウォーニの名前と秘密を背負わされた。
 ウォーニ家にしてみれば巷の伝承は全くの訛伝(かでん)だった。
 ウォーニの血筋はズカネ神から直接始まっていた。ズカネ神以外に神の存在などあり得なかった。ズカネ神が自分で造った人を孕(はら)ませて系譜は始まっていた。
 その系譜はウォーニ家の誇りだった。ズカネ神は時折、思い出したように系譜の中の人間を選んで顕現した。
「我が子よ。あなた以外にわたしの子はいない。正当な王が立つ時まで、わたしの血脈を守れ」
 シアーカ家はツナラ国の北東の地にある大きな湖、イムージム湖のほとりで肥沃な土を耕して家系を繋いできた。その土と水こそがズカネ神の血を宿した系譜の始まりだと伝承されていた。系譜の中には特別に目立った人物はいなかった。敢(あ)えて、そうしてきた。
 唯一、オラニル・シアーカだけが例外となった。彼は若年教育校に通う頃にズカネ神より神託を受けた。
 夜中にオラニルは誰かに呼ばれて目を覚ました。
 部屋の中は明るい光が満ち満ちていた。一点の光は強烈で、そこを見ると目が眩んだ。
 周りは何も見えなくなった。眩しさに目が慣れ始めると、光の中心が脈動していることが分かった。言葉がオラニルの意識に響いてきた。
「我が子、アムカ・ウォーニよ。あなた以外にわたしの子はいない。正当な王が立つ時が来た。王と名乗るものを覆し、わたしの血脈を永劫(えいごう)の果てまで全うせよ」
 オラニルは光が消えるまで身体を動かすことができなかった。光が消えた後、激痛が彼の身体を襲った。何かが、身体の中に入り込んだ感覚が残った。オラニルは悲鳴を上げて、泣き出した。

更新日:2008-12-09 00:15:45

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