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キツネ? キツネ!

 1、テレビ局スタジオ
    田村(アナウンサー)と対峙している野上。
    田村、一枚の写真を指さしながら――。
 田村「するとやはり、この写真の人は人間ではないのですね?」
 野上「ええ、その真ん中の人だけですがね」
 田村「と、言いますとやはり……」
 野上「そう、キツネです!」
 田村「しかし、どうしてキツネだと?」
 野上「よく見て頂くと分かるんですが……」

 2、宮田家、台所
    卓上テレビを見ながら朝食の片付けをしているサキ。
    すぐ横の洗面台では宮田がネクタイを結んでいる。

 3、テレビの画面
    写真の説明を続けている野上。
 野上「つまり、この写真ではピントが合ってるにも拘わらず」
  「このまん中の人だけが人だけがピンボケになっています」
 田村「なるほど、そういえば……」
    確かに三人のうち一人だけがピンボケである。
 野上「これを我々の間ではフラップ現象と言い……」

 4、宮田家台所
    テレビの話に、手を止め画面を見入るサキ。
 野上(声)「これは、人に化けたキツネ特有のオーラが影響し……」
  「このような独特の現象を引き起こすものと考えられています」
    皿を床に落とすサキ。
    食器の割れる音。
    宮田が驚いて洗面所から顔を出す。
 サキ「あなた……」
    震える手でテレビを指し示すサキ。
    宮田もテレビを見る。

 5、テレビの画面
 田村「そうしますと常にピンボケの人といいますのは……」
 野上「そう、かなりキツネである疑いが強いということです」

 6、宮田家台所
 サキ「あなた、私っていつもピンボケに写るわよね……」
    プっと吹きだす宮田。
 宮田「バカだな。なんでお前がキツネなんだよ」
 サキ「だって、いつもピンボケの人は……」
 宮田「朝っぱらからバカなこと言うなよ」
  「いいか、お前の死んだ父さんはキツネだったか?」
    かぶりを振るサキ。
 宮田「じゃあ、大宮の兄さんは?」
 サキ「人間だわ」
 宮田「だろ。大体、最近のキツネ騒ぎ自体、変になりそうなのに……」

    テレビではまだその話題を続けている。
 野上(声)「それがわかってきたのは最近のカメラの発達です」
 田村(声)「つまりピンボケ防止機能ですね……」

    テレビのスイッチを切る宮田。
    宮田、背広に手を通しながらサキに笑いかけ――。
 宮田「サキがキツネでない事は、俺が一番よく知ってるさ」
 サキ「そうね。だって本人が知らないはずないものね」
 宮田「とにかく写真がピンボケでもお前は人間なんだから……」
    宮田、サキのおでこにキスをする。
 宮田「気にするな。いいね!」
    サキの表情がパッと明るくなる。
 宮田「だから、くれぐれもシッポ出して買い物に行くなよ」
    宮田、イタズラっぽく笑いかける。
    サキ、新聞紙で宮田をひっぱたく。
    宮田、それを奪って慌てて出社する。
    笑いながら見送るサキ。
 サキ「やだやだ、どうかしてるわね私……」
    再び片づけものを続けるサキ。

更新日:2009-05-25 00:19:17

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