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視線

嫌な汗が噴出した。
異様な圧迫感。激しく波打つ鼓動。地の底から這い出てくる緊張感。
その理由を、私はすぐに知る。
視線だ。視線がある。


誰かがじっと私を見つめている。


いったい誰だ。
私は首を動かし、視線の主を捜す。
しかし、それらしき人は見つからない。
見つからないが、視線を感じる。

最も不気味な感覚だ。

視線はいつも付きまとう。
喫茶店でコーヒーを飲んでいても、図書館でめぼしい本を物色していても、公園で散歩をしていても……。

どこかで私を見つめている。

そして、とうとう家にいても視線を感じるようになった。
ここまでくると、これはもはや恐怖の対象だ。

私は捜す。
必死に捜す。
視線の主を、私は捜す。





あれだ。
見つけた。

あの女だ。

帽子を深く被っているが、その視線は私に向かう。

どうしたことか。
私に何か恨みでもあるのだろうか。
それほどまでに強い力が私に迫る。

とにかく私は逃げ出した。
その視線の届かない場所に。

しかし、逃げても逃げても視線は消えない。
どこまでもどこまでも、私の身体に突き刺さる。



鋭利な刃物のような視線が私に突き刺さる。



あ、と思ったときには遅かった。

私はどうやら足を踏み外したらしい。
階段を転がり落ちながら私は見た。



あの女の瞳を。



感情の見えない、どこまでも冷たい瞳を。

そして、彼女が笑った。

ああ。私は殺されたのだ。

彼女の視線に。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



さっと身を隠した。
異様な圧迫感。激しく波打つ鼓動。地の底から這い出てくる緊張感。
その理由を、あたしはすでに知っている。
彼だ。彼が居る。


あたしはじっと彼を見つめている。


彼は首を動かし、誰かを捜す。
熱っぽく見つめていることに気づかれたのかと思い、あたしは慌てて身を隠した。
彼からあたしは見えないが、あたしからは彼が見える。

最も素敵な光景だ。


あたしはいつも付きまとう。

喫茶店でコーヒーを飲んでいる彼。
図書館でめぼしい本を物色している彼。
公園で散歩をしている彼……。

どこでも彼を見つめている。

そして、とうとう家まで追いかけるようになった。
ここまでくると、これはもはやストーカーだ。

でもあたしはそれに気づかない。
自分がストーカーだなんて思わない。
これはただ、純粋な愛の形に過ぎない。


そして、見つめるだけでは物足りなくなった。


だから、わざと彼に見つかった。
姿を見せた。


お気に入りの帽子を被って、あたしは彼に顔を見せに行く。


それなのに、どうしたことだろう。

彼は何かおぞましいものを見たかのように顔をゆがめた。
あたしはその理由が知りたくて、彼をじっと見つめる。



すると、突然彼が駆け出した。


これは、まずい。
見失ってはいけない。

せっかく決心したのだ。

あたしは今日、彼に会う。
だから、どこまでもどこまでも、彼を追い続ける。



細い道を縫うようにかけ、彼は段差の急な階段に足を踏み入れた。



あ、と思ったときには遅かった。
彼はどうやら足を踏み外したらしい。
階段を転がり落ちる彼を見た。



ようやくあたしたちの視線が交わった。



彼の瞳が、あたしの瞳にぶつかる。

そして、あたしは笑った。

彼の脳裏に永遠に焼きつくように、あたしは精一杯の笑顔を向けた。



あたしは愛を伝えたのだ。



この視線で彼を射止めたのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



上から下まで転がり落ちた彼は、ぴくりとも動かなかった。

あたしは彼に寄り添い、そして――。





背後からの視線に身体を震わせた。





誰だろう。

あたしは振り向く。

そこに姿はない。

けれど、確かに視線を感じる。



嫌な汗が噴出した。
異様な圧迫感。激しく波打つ鼓動。地の底から這い出てくる緊張感。



視線があたしに突き刺さる。



更新日:2009-05-24 22:20:39