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 俺を見据えた警備員さんが、

「 さあ、言ってもらおうか。」

と言った。
 俺は訳が分からず、

「 えっ・・・、なに・・・?」

と答える。
 そして、警備員さんと俺の押し問答が続く。

「 だから、言えって言ってるだろ。」
「 なにを・・・・?」
「 いいから、答えろよ!」
「 だから、なにを・・・・?」
「 しらばっくれるんじゃないぞ。」
「 え・・・・?」
「 え・・、って、いい加減にしろよ、オマエ。」
「 何を言ってるのか、分からないんだけど・・・・?」
「 あのポーズと手だよ、手!」
「 え・・・・?」
「 上げていた手は、なんなんだよ?」
「 手って、これ?」

 Stayin Aliveな俺は椅子から立ち上がり、右手を挙げて人差し指を天に向け、左手を腰の辺りに握り、左足を少し開き、右足を軽くくの字にして、びしっとした顔を警備員さんの方に向け、ジョン・トラボルタの例のポーズを決めてみた。

「 そうだよ、それ。」
「 これが、どうかした・・・・・?」
「 その右手の人差し指が、下に降りて来て・・・・。」

俺は言われるまま、向かい合った警備員さんの方に、徐々に右手を下ろして行く。

「 こう・・・・?」

そして、右手の人差し指が警備員さんの顔の正面を向いたとき、警備員さんは、

「 うあァ~~~~!」

と叫んで、イスからスクッと立ち上がった。
 その立ち上がった膝の後ろで弾かれたイスが、反動で後ろに吹っ飛び、

“ キュルキュルキュル・・・・。”

と音を立てて、向こうの壁の方に移動して行く。
そして、

“ ガン!”

とコンクリートの壁にぶち当たり、60度ほど回転して止まった。
 一方、警備員さんは、

「 やめろやめろやめろ・・・・・。」

と、顔をクシャクシャにして喚きながら、上着を脱いで放り投げ、シャツも脱ぎ捨て、上半身裸になった。
 俺はその上半身を見て、思わず声を上げる。

「 おおっ・・・・・!」

そして、警備員さんは俺に向かってボディビルのポーズを決め、

「 フロントダブルバイセップス!」

と力を込めて言った。
見事な上腕二頭筋である。









更新日:2017-07-01 15:49:44

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