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 それで、俺は去年の病室の状況配置をヒントにして、

「 えっと、ここに俺が居て、そこにオババが居て、こっちを向いて・・・・。」

と言いつつ、

「 もう・・・、ブツブツが長いなァ・・・。」

と言うイボイノシシの不満の言葉の攻撃に耐えながら、辛うじてオババから言われた言葉を思い出した。

「 そうだっ、確かァ・・・・。
“夜は部屋にいた方がいいじゃろう”だったような気がする・・・・。」
「 ほ~ら、言わんこっちゃない。
一体、何度言われたら気が付くんだよ。
アホだよ、おまえ。」
「 いや、それでも誰も部屋に居ないなんて変だからさァ・・・。」
「 あのなァ、そう言う行為が危険を呼ぶんだよ。
思い出せよ、爺さんもこの部屋は安全だと言っただろ。」 
「 そうは言ってたけど、でもなァ・・・・。」
「 ああ、そうか、そうか。
そう言うことだったら、もう分かった。
いいから、勝手にしろ。
死んでも知らんからな。」
「 ゲッ・・・・・。」
「 じゃあな。」

イボイノシシはクルッと後ろを剝き、再びディスプレイを両手で抱えた。
そして、

「 Hau ruck!」

 俺はやられたと思った。
それは、大阪の自宅の隣の家に住むドイツ人の謎のおっちゃんがものを持ち上げるときの掛け声だったからだ。
 イボイノシシは両手でディスプレイを抱え上げたまま言った。

「 今度は“よっこい、しょういち”じゃないから、いいだろ。」

そして、そのまま茂みに向かってよろよろと前進を始めた。
 しかし、俺が引っ掛かった言葉は、それではない。

「 あ、待って、待って!
いや、それじゃなくって・・・・。
あの・・・、“死んでも”って、あの、それ・・・・?」

俺の質問に、イボイノシシは後ろを向いたまま、一瞬立ち止まって言った。

「 “夜は部屋にいた方がいいじゃろう”の次は、何て言ってた?」
「 ひぇ・・・・??」







更新日:2016-07-14 13:25:49

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