- 13 / 16 ページ
3.snow blind
再び、目を覚ます時がくるなんて。
本気で期待しちゃいなかった。カミサマは、いくら呼んだって返事もよこさないくせに、どうしてこういう時だけ無意味に世話を焼くんだ。嫌がらせか?
やっと開放されると思って、目を開いたら別の悪夢の中だった。それを喜ばなきゃいけないわけか。どこまでストイックなんだよ・・・・・・。
まあ、目覚めた場所は『あの時』よりいくらかマシだった。
ここは実験室ではないし、手足にヘンな拘束具もなければ、このあとやたらめったら注射を打たれ、全身に管を繋がれることも、おそらくないだろう。当時疲れきっていた俺が、恐怖におののき、能力を欲しがる彼らに必死で迎合してみせた、その様は今思い返したって吐き気がする。
犬だって、自分より下とみなした奴にはなつかないのに、な。
後悔なんて生易しい感情は存在しない。そんなのは、どっかでヨユーかましてる人間のすることだ。ギリギリに生きる術しか残っていない人間は、いちいち選べない。振り返る暇もない。
「あ、お目覚めだね。どう、記憶はちゃんとある?」
目が合った。いっそしらばっくれれば、少しは楽な展開になったろうに、俺は馬鹿みたいに表情丸出しで、それを正確に相手に読まれてしまう。
「言うに言えないって顔してるね。自己紹介、僕が代わろうか。
君はイルア・タキ、死にかけたこの星でしつこく住民狩りをする、組織の手先。
そしてわかると思うけど、僕らは組織の人間じゃない。すなわちこの星の住民。君と同じ『能力者』」
とことん悪趣味な展開だった。ここには確かに人のぬくもりがある。が、俺の頭をイイ子イイ子する相棒も居なければ、ウソみたいにお綺麗な鉄面皮も居ない。代わりに悪魔よりタチの悪い相手が、まっすぐこちらを向いてほほ笑んでいる。
俺の黒髪とは対照的な、真っ白の頭髪が『カミサマの遣い』みたいでゾッとした。
「んーとね。僕ら、保護して回ってるんだ、同胞を。
そんでレーダー役の子が引っかけて、行ってみたら君だったわけ。ビックリしたよ。まさかね、って」
「史上最悪の裏切り者が、野垂れ死ぬところだ、って?」
お互い迷惑な話だよな。出会う必要なんて、どこにも無かったのに。
こんなの、誰一人喜べやしないじゃないか。
「いや、でも聞いてみたかったんだよ。
君の力があれば、連中の手からいくらでも逃れられたろう?
奴らに捕まってまともに生きてるの、君くらいだからさ。不思議でしょうがなかったんだ」
「なんでまともに生きてるか、って考えたことは?」
「・・・・・・利用価値、とか、そういうコタエなのかな。
でも、フリだっていくらでもできるだろ。隙見てどうこう、とかさ」
なるほど、外野から見ればそんなものだろうな。
つい自嘲してしまう。滑稽ついでに、全部彼にぶちまけてやろうか、なんて気にもなっていて。
「逃げる、って言ったよな。この星の、どこへ逃げるんだ?
荒地ばかりに成り果てた地で、組織に追われて一人で生きろ、って?
俺にはそっちの方が、よっぽど自殺行為に思えるけどな」
やろうと思えば、できたのかもしれない。けど、そこまでする動機がなかった。だってなぜ? 何のために? 守りたいものも、生き抜きたい理由も、当時の俺には何一つ無かった。
どうでもよくなった。
「プライドを売って命を買った、それだけだよ。単純な話だろ」
かろうじて残っていたのは、死ぬのが怖いって本能だけだ。怖いことから逃げたい、って衝動だけ。だから生を繋いだ。
どんなに浅ましく、みっともなくたって、カッコ悪いとか正義がどうとか言ってられない。恨み上等、さげすみたきゃご自由にどうぞ、踏まれたら這い上がるだけ。
命を繋ぐってのは、そういうことだ。一番きついのは、その、醜い自分を受け入れて生きることだ。
もう慣れたけど。
更新日:2011-07-23 09:22:39