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Ⅵ シナモンノート

殺人が起こった部屋から、黄金の髪を後ろに結った若い貴婦人が自室に戻ってきたとき、ベットメーキングは終わっていた。ソファから組み直されたベッドには〝つた〟の文様が施され、さりげなくS字をなしている。枕元に近い壁にある読書灯は、花をモチーフにした極彩色の色ガラスでできており、やわらかで幻想的な光を放っている。
(さあ、問題を整理いたしましょう)
 シナモンは、ベッドに座り読書灯をつけ殺人現場で博士に書いてもらったフィールドノートを開いてテーブルに置いた。フィールドノートには、
「サイドテーブル、呼び鈴、ワインボトル、シャブリ、チーズ、毒薬……」
 と書かれてある。フィールドノートの左右には中居が撮った現場写真、船長が準備してくれた飛行船〝シルフィー〟の概略図、それに船医の所見を示したカルテがきれいに並べられた──。
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 A 殺人事件の概要
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 上下二層となるメインデッキのうち、上部デッキにあるのが乗客キャビンだった。黄金の髪を後ろに結った若い貴婦人の部屋は二号室、老紳士エドガー博士の部屋は一号室、いずれも乗客キャビン右舷にある。殺人が発生した部屋は乗客キャビンの反対側にある左舷の二十号室となる。その二十号室は、降り口の螺旋階段からみて左右に開いた通路のうち、左側通路のもっとも奥の部屋となっている。
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 1 船医の診断による被害者四人の死亡推定時刻と死因
  ──午後四時から七時の間に殺害。毒殺と考えられるが毒物の種類を特定できない。
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 2 殺人現場
  ──二十号室
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 3 被害者と主な遺留品の状態
  ──被害者
四人おり、椅子とソファでのけ反った状態で死亡。(争った形跡や死後に動かされた形跡はない)
──主な遺留品
 遺留品1 カード一式(ゲーム途中で、四人の殺害後に偽装された形跡はない)
遺留品2 ワインボトル(未開封のボトル四本、開封済みのボトルが三本ある。     開封済み三本のうち一本は飲みかけ)
遺留品3 厚切りチーズの盛り合わせ皿(食べかけ)
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 ……死亡推定時刻は、死後直後から発生する死斑の状態で判断できる。死斑は、被害者が仰向けで死んだとすれば背中側にでき、うつ伏せで死んだとすれば胸側にできる。そのため犯行を偽装したかどうか見破る基準となるのだ。

更新日:2009-11-01 02:58:12

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