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小説

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シンの記録

「ううう、今日は一段と寒い」

厚手のパジャマの上に半纏を羽織り、冷え冷えとした廊下を歩く明美が身震いしながら言った。
隣を歩く双枝が一尾を首に巻き付けてやりながら口を開く。

「しんしんと降ってるしね。明日は雪かきしなきゃ」

すると反対側を歩く真希が困ったように笑うのだった。

「雪かきはわたしがやります。
 血をいただいたばかりで体力が有り余ってますから」

「そう? わたしも体力が有り余ってるけど」

「そうなんですか? 確かに回復ペースは上がってるようですが……」

「鳴海の霊水を飲んでるから。
 それとコンちゃんへの信仰心が作用してるみたいなの」

双枝がそう言った途端、明美が手を合わせて拝むような仕草を見せた。

「神様、コンちゃん、双枝様、末永く元気でいてくださいませ」

「急にどうしたの?」

「いや、だって、双枝の体調次第で輸血量が変わるから」

「あ、うん、下心から来てるのね」

あけすけな物言いに双枝は苦笑する。

「神様に何かを請うのなら、お賽銭くらい用意しないとな」

声が聞こえて一斉に振り向けば、進行方向に双葉の姿が。
腕組みしながら無表情で仁王立ちしていた。
片足のみジャージの裾を捲り、無数の引っ掻き傷を晒す。

「珍しい。それって梢にやられたの?」

「ああ。紐を振ってやったら、バリバリと爪を研がれてな。
 店で売ってるおもちゃより、ラッピングの紐のが食いつきがいいんだよな」
「あるある! でもすぐに飽きるよね。
 んで、その梢はどこ行ったん?」

明美がすかさず相槌を打ち、小首を傾げて問いかける。

「恐らくは例の縁の下だ。我に返ったら、速攻で逃げやがった」

ため息交じりに双葉が答えれば、一同から苦笑が漏れた。
引っ掻き傷からうっすら血が滲み、気づいた双枝が歩み寄る。

「家の中では気を抜くようになったのね」

声をかけつつ双葉の足下にしゃがみ込む。
傷口を撫でるように辿っていけば、音もなく閉じていくのだった。
すっかり引っ掻き傷が消え、双葉から「どーも」と感謝の言葉が。
双枝が立ち上がりかけた時、裾を正していた双葉が口を開いた。

「なぁ双枝、さっき仕事のことで連絡があったんだが……」

歯切れの悪い言い方をされたため、双枝は怪訝な顔つきに。

「明美と真希が指名されたんだ。
 素性を明かせないやつからの依頼らしい。
 表向き二人は行方不明のままだってのに。妙だと思わないか?」

双葉が珍しく真剣な眼差しを向けて問う。
とうの二人はただ顔を見合わせた。

「わざわざ未経験者に……? しかも術者ですらないし」

「だからだろうな、双枝も指名されたのは。
 琴美も同行するそうだが、指導員っぽい立ち位置だぞ。
 古い姿見を回収するんだと」

依頼内容を聞かされ、双枝は渋い顔をする。

「古いものって力が宿りやすいんだよね。
 刀の時みたいにならなきゃいいけど……」

「そこでフラグを立てるなよ。断ったっていいんだぞ?」

「いや、でもさぁ、これってむしろチャンスでない?
 バイト探す手間が省けるし」

「そうだよね。素性を隠さなくてもいいわけだし」

明美が前向きに意見すれば、真希からも同調する声が。

「素人にやらせるつもりなら、初回の難易度は低めだろう。
 それに双枝もいるからな」

自分を説得するように双葉は言った。

「うわぁ、フラグを立ててるし」

すぐに明美からツッコミを入れられたものの、取り合わずに背を向ける。

「やる気があるなら止めやしない。無理だと思ったらやめちまえ」

俯き加減に歩き、奥にある自分の部屋に向かうのだった。

「なんか妙に大人しくない?」

「旅行から戻ってからずっと変だよね。仕事で何かあったのかな?」

明美と真希が寄り添いながら小声で話す。
その後ろで双枝が去りいく背中を凝視した。
襖が閉じて静まり返る。

更新日:2017-04-21 12:03:49