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小説

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センの記録

木製の玄関ドアを開け、涼やかな鈴の音を響かせる。
そこは木のぬくもりが感じられるパン屋であり、ガラス張りの店内は非常に明るかった。
カウンターの奥にはガラス張りの工房が。
入店に気づいた店員が「いらっしゃいませ」と顔を出す。
そちらを見やれば奏が立っており、白いコックコートと赤いハンチング棒を着用していた。

「奏さん、なんで店員に?」

驚きながらも双葉は問う。

「友人の店を手伝いに。通常業務の合間にね」

「言ってくれればよかったのに」

「それじゃあサプライズできないでしょう?」

奏は茶目っ気たっぷりに答えた後、双葉の後ろにいる凛と葛の葉に微笑みかけた。

「凛さん、葛の葉さん、お久しぶりです」

気さくに挨拶されたことで、二人も会釈を返す。
たまたま他に客がおらず、年長者たる葛の葉がこれまでの礼を述べていた。

話し声が気になったのか、工房の奥から男性店員が顔を出す。

「いらっしゃい、双枝ちゃん。ちょうどよかった」

双葉を見るなり満面の笑みを浮かべて近寄った。

「店長、彼女は妹の双葉です」

横から奏が指摘する。

「双葉ちゃん? そっかぁ、ごめんごめん。未だに見分けがつかなくて」

店長は悪びれる様子もなく、弾んだ声で詫びていた。

あまりの浮かれように双葉は怪訝な目を向ける。

「店長、何かいいことありました?」

「そうなんだよ、あったんだよ! 双枝ちゃんのおかげでね!」

「双枝が?」

「不妊で悩んでた時に参拝を勧めてくれてね。
 行ってみたら効果覿面だよ!
 こんなにも近くに子授けの神様がいたなんて」

興奮して声が大きくなり、ガッツポーズまでする始末。
気圧された双葉から「はぁ」と曖昧に笑い返されたものの、凛や葛の葉に祝福されて浮かれたまま工房に戻る。

「上のイートインスペースに移動しましょうか」

奏がそう言って歩き出し、入り口横にある階段に導いた。
ぞろぞろと二階に上がれば、手作り小物などの販売スペースが奥の方に。
凛が興味を示し、ボックス席に座ってからも眺めた。
最後に双葉が着席し、飛び乗った梢の寝床になる。

「今日はわたしのおごりだから、そこのメニューから好きなものを選んで」

「いえ、ここは自腹します。
 スーパーで試食したあとなんで、持ち帰りになりますが」

「そう。野菜ジュースがあるけど、どうする?」

「じゃあ、それで。凛達はどうする?」

双葉が向かいの二人を見やれば、頭を振られて向き直る。

「さっき言ってた野菜ジュースを一つ」

「かしこまりました。そちらの販売コーナーもご自由にご覧ください」

にこりと笑って奏が言った。
踵を返して階段を下りていく。

更新日:2017-04-20 11:53:19