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小説

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ザンの記録

若い男性が何度も後ろを振り返り、必死の形相で暗い廊下を駆ける。
走れども走れども風景は変わらず、同じドアの前を何度も通り過ぎた。
呼吸が乱れて疲労感が増すばかり。
追っ手の姿が遥か後方に見えようとも、不安が拭えなかった。
手近な取っ手を引っ掴み、ドアを開けようと試みる。
開けば室内に駆け込み、施錠して息を潜めた。

突如、眼前のドアに影がかかる。
咄嗟に振り向いたものの、音もなく袈裟切りにされてその場に崩れ落ちた。
床に血だまりが広がっていく。


「──なのに、ご遺体は見つかってないわけね」

血痕のみ写した古い写真を見つめつつ、ため息交じりに双枝は言った。

「まさか、その死体を取りに行けってんじゃないだろうな?」

隣席の双葉が口を開く。

「まさか。その必要があるのは凶器の方よ」

事も無げに茜が返答した。
露骨に嫌な顔をする双葉に別の写真を差し出す。
それは古い半身写真であり、双葉が受け取ってから語り出した。

「それは犠牲者の写真よ。名前は望月誠。
 責任を放棄した代償に、初代のご加護を失った血縁者の子孫なの」

双枝と双葉ははっと息を呑む。

「お察しの通り奏の父親よ。
 その父親を殺めた刀は望月家の守護神だったもの。
 ウチから独立する際に与えた簡易のお守りね。
 それが厄を吸い過ぎて変質し、近づく者を斬り殺す凶器になった。
 あれから二十年経つけど、今でも変わらずそこにあるわ」

「二十年? そんなに厄介な代物なのか?」

「ええ。最近になってようやくあなたが蔵に移動した曰く付きの書物よりも」

すらすらと近況を言い当てられ、双葉は渋い顔をする。

「双枝、行けるわね?」

茜が見据えて問えば、双枝が真顔で頷いた。

「場所は?」

「奏が幼少期を過ごした小さなマンションよ。
 その前は山林と見紛う耕作放棄地で、今は無法者が出入りする廃墟になってるわ」

更新日:2017-04-19 12:09:14