• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 1 / 5 ページ

prologue

 とある出版社の小説応募に作品を送った熊さん。募集の締切日を過ぎて間もないというのに、応募した出版社から電話を受けました。
電話向こうの男性は熊さんに名乗ったあと「すばらしい作品です!」とさんざ持ち上げ、「是非、本という形にしませんか」と提言、出版案内送付の了解を求めます。今まで書いたものを、人様に褒められたことがなかった熊さん、思いがけない「出版」という言葉に舞い上がりました。天にも昇ったような熊さんは気もそぞろで仕事も手に付きません。
 数日後、講評と出版の案内とが出版社から熊さんの手元に届きます。

 穏やかな初秋の夕方、暗くなるにはまだ早い。熊さんと八っあんが、軒先に置かれた夏の名残の涼み台に腰を下ろして、熊さんの「出版」について話し始めた。
「熊さん、どうでした、先様の提案に対しての答えは出ましたか?」
 熊さんは、幼なじみの八っあんにだけ、出版の話が持ち上がったことを打ち明けている。
「それが八っあん、答えを出す前に、夢の中に出てきた金之助さんに……」
「金之助さん?」
「八っあんは知りませんか? 夏目金之助さんを」
 八っあんは、何かを見つめるわけでもないのに目を細め、記憶を手繰り寄せた。しばらく間をおき、
「ああ、あの有名な」
 八っあんは、手繰り寄せた名前に目を見張り、熊さんに視線を転じた。
「夢の中の金之助さんにたしなめられました。『便りが褒められた風に書いてあるからといって舞い上がるでない、田舎出はこれだから困る。確かに、講評にもある通り、書き足りないところが山ほどあるではないか。それなのに考える事もなく、向こう様の提案にすぐ飛びつこうとする。募集の文句を読んでみろ、大賞は社持ちで出版と書いてあるではないか。それが、出版するのに費用が要るということは、つまり、お前さんの書いたものは賞に値しないものということだ』そう言ってね」
「む~なるほど……」
「金之助さんはこうも仰るのですよ。 『やはり素人の限界というのか。人様に読んで貰えるものを編み出せる玄人との違い、もっと痛烈に言えば、性格だな。物事を綿密に考えることのできないお前さんの性格が、そのまま作品にあらわれている』 とも」
「熊さん、よく聞けば、之助さんのおっしゃることも一理ある」
 高名である夏目金之助さんから見れば、そういった批評になるのはやむを得ない。
「『一生の記念とするならば、人様の手を借りてでも完成するがいい、だがそうなると、純粋なお前さんの作品でなくなる。単なる記録であり、文字の羅列にすぎない』とも……」
「金之助さんも厳しい言い方ですね。でもね熊さん、一生の記念品ですませたくなければ、尚更、人様の手を借りなければ先へ進めないでしょうが。そうしないと、それこそこの先、熊さんの書くものすべてが文字の羅列となるんじゃないですか」
「八っあんは、金之助さんに劣らず、なかなかに厳しい」  
 熊さんは、八っあんに相談してよかったと心底から思った。

更新日:2017-04-09 10:49:26