官能小説

成人向けコンテンツについて
R-18

ここから先は未成年にふさわしくない成人向けの文章が含まれています。

18歳未満の方、もしくはこのような小説を不快に感じる方は「入室しません」を選択してください。

上記の内容に同意される場合のみ「入室します」をクリックしてお進みください。

  • 7 / 15 ページ

2 Fear

カーテンの隙間から差し込んで来た陽の光に照らされて、目が覚めた。
10時になろうとしている時計を見て、随分とたくさん寝たのだな、と驚く。初めての場所で、無防備なものだと自分に呆れるが、こんなに心地よい場所を、ヨンジェは他に知らない。
起き上がる時、身体が軋むように痛んだ。だが、気分は悪くない。目覚めも良い。

カーテンを全開にして、夏の高い青空を眺める。

昨夜の温もりは幻だったのだろうか。デヒョンはどうして、得体が知れないはずの自分に優しくしてくれるのだろう。
昨夜の温もりを覚えていた。優しい言葉も忘れない。偽りのない明るい心の聲に、深く安心したことを思い返して、ヨンジェはまた涙を流した。



1階に降りていく。リビングには誰もいなかった。どこにいるのだろうと意識を澄まして探してみると、あるドアの向こう側にヨングクがいるとわかった。近づくと微かに音楽が聞こえてくる。作曲家だと聞いていたので、ここが作業部屋なのだろう。仕事をしているのなら、邪魔してはいけない。だが、他人の家で勝手に食べ物を漁ってもいいものか悩む。

どうしようかな、とキッチンで立ち竦んでいると、ヨングクが部屋から出てきた。マグカップを持っている。ヨンジェに気付くと、笑顔を見せてくれた。

「おはよう。よく眠れた? 俺、仕事しなきゃいけないから、飯はテキトーに食べて。冷蔵庫の中、何でもいいよ」

「あ…あの…」

「悪いね。昼には終わるから、自由にしてて」

返事を期待した様子もなく、ヨングクは朝、コーヒーメーカーでたっぷり作り置きしておいたコーヒーをカップに注いだ。欠伸をして一口飲む。昼までに仕上げなければならない曲があるらしい。昨夜も3時間程しか寝ていないという。
作業室に引き上げる家主の背中を見送る。ヨンジェは再び1人リビングに取り残されそうになり、思い切って声を出した。

「あの!」

驚いてヨングクが振り返る。心では、何を言われるのか、驚いただけでなく、恐れていた。

「泊めていただいて、ありがとうございます…。あの、それから、手当も…ありがとうございました」

頭を下げてそう言うと、ヨングクの雰囲気がふっと柔らかくなった。顔を見るととても優しい笑顔でだった。彼は片手だけで応えて、部屋に入った。

ヨンジェはホッとした。気持ちが通じて、嬉しかった。礼も言えた。

それにしても、自由にしていいと言われても、困惑してしまう。とりあえず手近にあったカップでサーバーの水を飲み、冷蔵庫を開ける。無造作に突っ込まれた食パンがあったので、それをトースターで焼く。コーヒーもカップに注ぐ。

食べ終わると、何もすることがない。ソファに移り、テレビをつけてみる。騒がしさに慣れることができないまま、チャンネルを変えて行くとニュース番組になった。海水浴場が賑わっているという話題を何気なく見ていた。だが、「ミュータント」という単語が出てきて、ヨンジェは咄嗟にテレビを消した。
本人が見ないようにしたところで、世間にそのニュースが流布していることに変わりはないのだが、否が応でも考えてしまう。

ここにいるべきではない、と。

「ここにいていい」と言ってくれたのは、デヒョンだけで、ヨングクは反対はしていないものの、ヨンジェの存在に戸惑っていることは間違いない。まだ恐れを抱いているのだから。
ここを出て、行く宛てなど今もない。また昨日までの2日間を繰り返さなければならない、という想像に、ヨンジェの足は竦む。

だが、もしも…。今もって見つからない状況に業を煮やし、研究所が追手を差し向けたとしたら…。

追手はきっと、あの子だ。きっと、志願するだろうから。

ヨンジェは震えて、ますますここにいるべきではない、という考えを強く持つ。

手首が、身体が痛む。心も締め付けられるように、苦しくなる。それでも、優しくしてくれた分、暖かく一晩匿ってくれた分、「迷惑をかけない」方を選ぼうと思った。



自分の服はどこだろう。それに着替えよう。もう少し食べた方が良いだろう。だけど、なんだか食い逃げみたいだ。何も言わずに、黙って出ていくのは、義理に欠けるような気がするが、仕方がない。

2階に上がり、服を探す。サンルームを見つけて入ると、予想通り洗濯物が干してあった。ヨンジェの服もあり、すでに乾いていた。

着替えて1階に降りる。

ヨングクがいる部屋の前で、ヨンジェはノックをしようか少し迷う。迷って、止めた。書き置きをしようと思って紙とペンを探すも、すぐに見つからないから、これも、迷って、止めた。

時計は11時を回った。

ヨンジェは足音を立てないように、静かに歩く。玄関のドアをゆっくりと静かに開けた。
眩しい光に目を細める。外は、どこまでも明るく、暑く、ヨンジェは怯んでしまう。「さよなら」を言えなかったな、と思う。

それでも、外に出た。


更新日:2016-12-20 17:12:57

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook