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アレクセイ・ミハイロフを追ってドイツから追ってきたときいた時には、心底驚いた。
わずか16歳の少女が、見つかるかどうかもわからない男のために、たった一人で国境を越えてきたのだ。命の保障などないというのに。

当初は、ユリウスのひたむきさを蔑んだ。愚かな女のすることだと。

だが、どんなに蔑んでも屈辱的な言葉を投げかけても、彼女は揺るがなかった。
ひたすらにあの男を想った。
それは記憶を無くしてからも変わらなかった。

逮捕され広場でされしものにされたアレクセイ・ミハイロフの姿を見せた時も、彼女の心はざわついた。
何かを懸命に思い出そうとしていたのだ。
ユリウスの心にはあの男がいる。

それでも愛してしまった。
だからこそ、アレクセイの助命嘆願を皇帝陛下に申し出たのだった。
周りは訝しんだが、彼を死なせたくなかった。

アレクセイ・ミハイロフが監獄で死亡したときいた時、自分でも驚くほど動揺をした。
シベリアから生還するとは思わなかったが、生きていればいつかはユリウスが会うことがあるのではないかと、拉致もない思いがよぎったことも事実だった。
それほどまでに彼女への思いがあふれていた。

今度こそ負けた・・・と。

愛する女は、彼女が真実求めた男に寄り添っている。
市井の女房として生活をしている。不自由な暮らしをしているのだろうか。この屋敷で何不自由なく暮らしてきた娘ができるのか?
ここに入れば・・・・

いや・・・・

自分自ら、彼女をドイツに帰そうとしたのだ。
その結果、アレクセイ・ミハイロフのもとにいる。

言いようのない、喪失感が襲ってきた。


更新日:2016-11-05 15:31:25

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