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流れゆく平行のとき~それぞれの道



「支度は整ったか?」

「・・・うん。でもね、頭がヘンな感じだ・・・ピンがたくさん付いているからつっぱる感じで・・・やっぱり、下したらダメかな」

「忍びとはいえ外に出るのに不都合が生じないようあつらえてくれたのだろう?女のスタイルについてはよくわからぬが・・・」

「はい、わかってます・・・フフ・・・」

「なんだ?」

「だって・・・前から思っていたけど、あなたを見てるとお父さんてこんなふうかなって・・・あ、ん!」

「おまえがときどき、可愛い駄々を捏ねるからだ。髪を上げたときのおまえのこの美しいうなじにはそそられるな・・・父親は、こんなことはせぬぞ?」

「もう・・・」

レオニードの唇を首筋に感じながら、ユリウスはその逞しい躰にすっぽりと包まれしばしされるがままでぬくもりに浸る。

「辻馬車が到着いたしました」

ドアの外からの執事の声に我に返ったユリウスは、その腕の中でくるりと躰の向きを変えると、碧の瞳を輝かせて恋人を見上げた。

「ああ、とても嬉しい!久しぶりにオペラを観られるんだもの!ありがとう、ボクのために無理をしてくれて・・・」

「すっかりおまえを籠の鳥にしてしまっていたからな・・・すまなかった。もっと早くに思い出せたらよかったのだが、長いこと使っていなかった我が家の桟敷席でな」

「謝ったりしないで・・・ボクはそんなふうに思ったことはないよ?幸せすぎて怖いくらいなのに!」

「そうか、わかった・・・時間だ、行こう」

レオニードは目を伏せながらフッと口角を上げる。
そしてごく自然に腕を差し出すと、ユリウスもニッコリと華奢な腕を絡ませるのだった。


~~~~~
レオニードとユリウスの新たな生活が始まって、半年ほどの月日が経とうとしていた。
当初のヴェーラの構想通り、ユリウスの居室は本邸からさほど離れてはいない、レオニード達の母親が使っていたという瀟洒な離れ屋におかれた。
そこはオランジェリーをはさんで本邸の後方に位置しており、食事の時間などは本邸の食堂に行きヴェーラと共に過ごしたが、このこじんまりとした家が気に入ったユリウスは、日中一人の時は使用人も最低限しか置かず自由にのびのびと過ごしていた。
またレオニードも、帰宅してからの執務などを終えるとユリウスのもとで大半を過ごし、小さな離れ屋の一室がユスーポフ家の当主の憩いの居室となっていった。

出会ってから7年、二人が辿り着いたのは、愛する者と身も心も寄り添える暮らし・・・今まで感じたこともないような安息感と幸福に満たされ、恋人達が育む愛は日毎大きくなるばかりであった。



更新日:2017-11-20 13:26:47

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