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第9話 川面に映る夏の光~ドビュッシー アラベスク第1番

挿絵 534*800

【Photo: thecrazytourist.com】



夏至が近い。陽射しが日ごとに強まってきた。川辺の木々の葉も繁り、川面に緑の濃い影をおとしている。

僕は、降りそそぐ夏の光の下、本を片手に川べりを散歩していた。

昨晩から、トーマス・マンの「ブッデンブローク家の人々―ある家族の没落」を読んでいた。北ドイツの富裕な商家の家族代々の物語で、音楽に傾倒していた4代目で一家は滅亡という話らしい。なんだか我が身に重なり、読んでいるうちに憂鬱になってくる。緑の木々にあふれる光が浴びたくなった。

川の水面(みなも)に明るい光が乱反射しながら流れている。その美しさに、僕は、数年前、母がドイツアルプスの別荘で弾いていたドビュッシーを思い出す。

奴と僕は、よくあの別荘近くの湖で素っ裸になって泳いだ。山々に囲まれた澄んだ湖面に二つの白いからだが跳ねる。湖岸を振り返ると、母の白いパラソルが遠くに見える。手を振ると、母がパラソルを上下に振って応える。

星空の降る別荘の居間で、母がピアノのふたを上げて、
「今日のあなたたちのような曲ね。」と言いながら、ドビュッシーのアラベスク第1番を弾く。左手は八分音符、右手は三連符が連なり、拍子がずれているのが絶妙な効果を生み出す。
「ほら、左手は水の流れ、右手は光よ。水面に光がきらきら反射しているのよ。」

水が流れ、光が跳ねる。
懐かしく美しい夏の情景が、目の前のレーゲン川の川面に重なる。

https://www.youtube.com/watch?v=c_NyNHSaF44
【Debussy, Arabesque No. 1】


更新日:2016-10-16 17:56:35

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