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First experienceⅡ
「大丈夫?降りようか?」
さすがに危ないので歩き始めると、ユリウスが気遣うので大袈裟におどけてやる。
「オレは一刻も早く帰って、おまえとゆーっくりしたいんだ!それに...満点の星空のもと、結婚式の余韻に浸りながら愛妻をおぶって帰る、いいじゃねーか?さっきからずっとおまえの歌声も心地よく頭の中で廻ってて、更にいい気分さ!」
「ふふ、そうなんだ?じゃ、お言葉に甘えて」
「おう!おまえの一人や二人、なんてことないさ」
ベッドへ抱き上げていくときも難無くだが、こうしておぶってみてもやっぱり軽いな。
そう感じる度に、こいつがこの華奢な体でオレを追って一人この国に来たことの重みを実感し、愛しさはますます募る。
「なあ、今日のご馳走もちゃんと食ったか?軽くて拍子抜けしちまう」
「もちろん!でも、胸がいっぱいで...あなたと暮らすようになって、これでも前よりは食べれるようになったんだよ?家事で動き回るようになったからかな・・・」
「そうか、貧乏暇なしが良かったか、ん?」
首に廻された腕に口づけて肩越しに窺うと、ユリウスは少し間を置いてから話し始めた。
「ボクが初めてあの部屋に来た翌日からね、あまりにも酷い散らかりようをなんとかしなきゃと思って、あなたの様子を看ながら毎日少しづつ一人で片づけて掃除をしていったんだ。何日かして、やっとなんとか片づけ終えたとき空腹を感じてね。当たり前のことなのに、とても久しぶりの感覚で新鮮だった...ボクは生きているんだって・・・」
「そうか・・・」
あの時のおまえは、そうやって少しづつ前を向けるようになって、生かされたことに感謝できるようになっていったんだな。
「ホントに、あの時の部屋は酷かった!翌日、呆然としちゃったもの」
ことさら明るい声で、時効事案を持ち出す妻に言い返す。
「仕方ないだろ?おまえが来るまでは、たまーに帰って寝るためだけの所だったんだ」
「おかげで、生きる力もらえた!」
「こいつめ!」
しばらく、お互いのぬくもりの中で思いにふける。
この半年程のあいだに起きた様々な出来事、大きく揺さぶられた心...。
諦め、傷つけ(傷つき)長い時に隔てられても、それでも確かめることができた不滅の恋人の想い、交わされた永遠の契り...。
手探りの日常に、優しく灯るささやかな幸せ。
そして今日、友の前での改めての誓い。
「あなたの背中、あったかい・・・あなたの匂いも大好き」
背中に頬をこすりつけて甘えてくるおまえの、このぬくもりも重みも全てが貴くたまらなく愛おしい・・・今日は(も)花嫁に全面降服だな。
「背中と匂いだけかよ?」
すっかりカラダを預けて「ううん」と首を振る仕草の愛らしさに、照れ隠しの憎まれ口も空砲状態だ。
スカートがめくれ過ぎないように腕の位置に気を付けていると、手首の辺りに直に感じるひんやりと柔らかい腿の感触。
細いなりにプニュっとして、なんともイイ感じだ・・・。
よーし、早く帰ろう!
「そーれ、天使の翼で一気に愛の巣へ~!」
「もーアレクセイったら、子供みた、い~~‼」
更新日:2016-11-03 01:17:14