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ジニョンの未来

微睡みから浮かび上がる。
陽の光がまぶたを通して、赤く見える。少しだけ開けられた窓から、爽やかな風が入ってくる。

寝返りを何度かうって、ようやくうっすらと目を開ける。寝起きのぼうっとした頭を、壁の時計に向けると、時間はもう10時を回っていた。一緒に暮らしている伴侶はとっくに仕事へ出かけているだろう。

シャワーを浴びて、1階に下りて、ダイニングキッチンへ行って、コーヒーを作る。フルーツを切って、シリアルに入れて、一緒に食べる。
食べ終わると、もう一杯コーヒーを飲みながら、タブレットを開いて、メールを確認する。今日はリビングのソファにだらしなく座って見る。返事をしなければいけないものにはして、あとはほとんど無視をする。製作や個展の依頼などは、差出人が知らない名前ならば、即ゴミ箱行きだ。いちいちかまっていられない。

毎朝のルーティンを終えて、ジニョンは大きく伸びをした。

小鳥が庭の芝生で遊んでいる。何かをついばんだり、風に乗って、飛んだり、跳ねたり。
それらを眺めながら、よく伴侶から、「積極的に庭に出て」と言われることを思い出して苦笑する。
遠い過去は霞がかかったように、ぼんやりとして、心に浮かぶことがあっても、心が動かされることはない。しっかりと見つめて、向き合う時期も、もうとうに過ぎている。
それでも、どこか見えない糸で繋がっているみたいだ。
動いて、ひっぱって、千切ることは簡単だ。
だけど、やはり、切れる直前のピンと張りつめた印象が気になって、また緩めてしまうのだろうか。

ふわぁ、と欠伸をする。

とりとめのない思考を消して、仕事をすることにして、アトリエに行った。



 ***



アメリカ、ニューヨーク郊外の住宅地。周辺の中ではそれほど大きくはない家を買ってから、もう数年。ガレージを改装して、アトリエにして、ジニョンは自宅で絵を描いて、それを売るという仕事をしている。

韓国の美術大学の大学院に進学してから、ニューヨークの美術学校へ留学した。1年の留学期間が終わり、韓国の大学は辞めて、ニューヨークの学校でさらに1年学んで卒業した。

アメリカでも様々なコンペやコンクールに入選し、少しずつ名を知られるようになっていたジニョンは、卒業直後、個展を開いて、それが好評を得ることができたので、アーティストとしての足場を築くことができた。
個展を開こうと言ってくれたギャラリーのオーナーとは、今も一番親しいスポンサーであり、ジニョンを売り出してくれた恩人でもある。

だが、「記憶を失った、不遇の美少年」というタイトルには、正直に眉を顰めた。

売れるには、実力は最低条件、その上に、ビジネスの才覚やマネジメント能力、そして個性的なストーリーが必要だと言う。ビジネスやマネジメントはジニョンは出来ない分、そのオーナーが肩代わりしてくれて、大いに助かったところがある。だから、気に入らないタイトルはその代償というか、甘んじなければならない部分だろう。

事実、記憶喪失を経験し、客観的に見るまでもなく、随分と悲惨な境遇を生きてきたのだから。
オーナーはすべてを知っている訳ではない。部分的な、外側から見える事実しか知らない。根掘り葉掘り聞いてはこないし、特に「可哀想」という扱いもしてこない。その上、同性愛にも偏見を持っていなかった。

オーナーは純粋に、ジニョンの絵を気に入り、売りたい、手伝いたい、と言ってくれた。

扇情的な謳い文句に興味を示す人々もいたが、相手をせず、地道に作品を描き続けていれば、次第に、しっかりと絵を見てくれる人々だけになった。

母親よりも少し年上の、だが年を感じさせないキャリアウーマンのオーナーは、たとえ少し見解の相違があったとしても、アメリカでの生活、仕事の上で、大切な人だった。

成功した、と言えるだろう。

すべて1人で描くので、数は多くないし、メディアへの露出も消極的なので、ものすごく稼いでいる訳ではないが、ニューヨークの中心地近郊に一軒家を買って、伴侶と2人、不自由のない暮らしをできるくらいには稼いでいる。

ジニョンはただそれだけで充分だった。


更新日:2017-04-07 17:38:45

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光の中へ 番外編 ~愛しい人のために~ R-18