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新体力テスト


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 稽子と真守と巴が勝負をした翌日。
 教室では朝のショートホームルームが行われていた。
「今日は全校生徒、合同の身体測定と新体力テストが行われます。通常の授業じゃないからって、はしゃぎ過ぎないでね。全力で取り組みなさい。手を抜いちゃ駄目よ」
 ウェーブのかかった黒髪の女性担任、山田が教壇で話をしている。
 左後方の席に座る巴をちらりと見た。
 彼女は、ぼうっと窓の外を眺めている。
 昨日は勝負の後、三人ともたいした怪我はなく、通常通り授業を終えた。
 帰り間際、改めて巴に話しかけたが、部活があるからと言ってさっさと教室から出て行ってしまった。
「さて、そろそろ時間ね。ちょっと早いけれど、この辺にしておきましょうか。女子はこの一組の教室で、男子は二組の教室で着替えてね」
 クラス委員による号令のもと、山田への挨拶が終わる。彼女が教室から出て行った直後、チャイムが鳴った。
 それと同時に赤薔薇が勢いよくスカートを脱ぎおろした。
「ちょっと男子! いつまで教室に残ってんのよ! 覗いてないで、西ノ上くん以外はとっとと出て行きなさいよ!」
「高校生にもなって第二次性徴がまだまだ終わらないってか! 男子はスケベなサルばっかだな!」
「いつまでも赤薔薇の桃尻に見とれてるんじゃないにゃ!」
 尻を振りながら怒号をあげる三人衆の気迫に怯え、男子生徒は蜘蛛の子を散らすように教室から逃げ出していった。もちろん、西ノ上もである。
 手早く赤色のジャージに着替える。
 学年やクラスごとに回る順番が決められていて、このクラスの女子は最初にハンドボール投げを行うことになっていた。
 グラウンドにぞろぞろと移動すると、担当の男性教諭から説明を聞かされる。
 とは言っても、全員一年前の中学生だった時にも経験していることだ。真剣に話を聞いている者は少ないし、教諭も注意点とコツだけ手短に話した。
「それじゃあ、二人か三人で組みを作って、テストを行う者と計測する者で効率よく回って行ってくれ」
 それを合図に仲がよい者同士でグループが作られる。
「負けませんわよ」
「上等じゃねえか。何か賭けるか、あ?」
 自然と側に真守と稽子が寄ってきて、早くも火花を散らしている。
「きゃわわ~ん、私、こんな重い物持てな~い!」
「大丈夫だって。赤薔薇なら出来るさ。努力することが大事なんだから」
「頑張るにゃ、赤薔薇!」
「二人とも……。私、頑張るわ。せーの……、どっせーい!!」
 三人衆は早速テストを始めている。赤薔薇の投げたハンドボールはゆうに20mを超えていった。
「ああーん、やっぱりあれだけしか飛ばなーい」
 そうは言うが、彼女は下手な女子の倍近い記録を叩き出している。
 それよりも気になるのが、周りはジャージや短パンの中、なぜこの三人衆はブルマをはいているのだろうか。パツパツである。
 よく分からないが、あまりかかわり合いにならない方がいいだろう。
 ふと、一点を見つめる真守に気付いた。視線の先には、一人佇む巴がいた。
 真守が振り返り、稽子と自分をそれぞれ見た。
 稽子は無言で頷き、自分もそれに続いた。
 三人で巴の方へ向かっていく。

更新日:2014-09-05 19:12:08

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