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はじめに

マンションにおもしろ話はいくらもある――と書けば、マンション管理に関してよほど面白いことを書いてくれる本なのだなと思われるかもしれない。
だが、現代の長屋においてはそうではない。
現代の長屋、つまりわれらがマンション住民たちの織りなすエピソードの数々は、八っつぁんや熊さん並みのトホホな事実の集積であるとはいえ、下手をすると、管理員の首のみならず管理会社そのものを更迭する事態を招かないとも限らない。それだけに、マンション管理での失敗談は、管理員という最前線にいる存在にとって、笑って済まされない要素を多分に含んでいるのだ。
……と、こ難しく書き始めはしたものの、筆者の本心はそこにはない。
世の中、しゃちこばって警戒心旺盛なだけが能ではあるまい。マンションの管理員といえば、何百もの眼差しを一身に浴びる気の抜けない職業柄ではあるが、たまにはアハハと笑って、非当事者的な息抜きがしてみたい。
他山の石ではないが、他人の失敗をもって自らを慰めるよすがとするのも悪くないだろう。同僚や先輩、住民の一挙手一投足、はたまたお間抜けた粗相ぶりに哀れを感じ、わが身の優位を知って安堵の胸を撫で下ろすのもまたよし。
マンション管理の黒衣ともいうべき陽の当たらない職業に眼をつけ、第二・第三の生業にしようとお考えの方々――。そのような志をお持ちの方々にとって、本書に登場する数々のエピソードは、反面教師の好個の見本として、少しは役立ってくれるのではあるまいか……。
さらには、われらが同胞となられる方々にだけは、せめてここに書かれてあるトホホな事件にだけは遭遇しないでもらいたいという悲痛な思いを込めて、筆を進めるつもりだ。
はじめ楽しく、なかぱっぱ、やがて悲しき鵜飼かな――なんのこっちゃ――ではないが、笑っているうちに身につまされ、ひいては仲間が増えた気がして安心する。そんな半実利的ボヤキ物語になってくれればと願っている。

更新日:2014-08-22 17:19:01

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おばかフロントマンとぐうたら管理員(試読版)