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アゲハチョウの恋人 いち

「きみのことが、好きなんだ。」

シャナは、ふき出しそうになるのを、必死でガマンしました。

アゲハチョウは、げらげら笑ったりしないものだからです。

そこで、笑うかわりにこんなふうに聞いてみることにしました。

「どうして、わたしのことが好きなの?」

「きみって、とっても素敵だから。」

シャナが素敵なのは、あたりまえです。

なにせアゲハチョウなのですから。

「ぼくは、ルー。ぼくと、おつきあいしてください。」

シャナは驚いて、相手を見つめました。

からだの大きさはシャナの五分の一。

貧弱な短いしょっ角。

羽の色は、みにくい灰色。

ルーは、シジミチョウだったからです。

シャナは、あきれて言いました。

「シジミチョウに申しこみなさいよ。」

「ぼくが好きなのは、きみだ。」

「わたしは、アゲハチョウよ。」

シャナが、すまして言います。

「知ってる。でも、アゲハチョウだから好きになったわけじゃない。」

こんなふうに言われたことがなかったので、シャナはちょっと嬉しくなりました。

でも、その気持ちは隠しておくことにしました。

ルーがシャナをデートに誘います。

「明日、いっしょにでかけよう!」

何と言って断ろうかと迷うシャナに、ルーが言います。

「ぼく、おいしい蜜を出す花を知ってるんだ。」

明るく誘うルーに、シャナの気持ちが揺れます。

「きみといっしょに、あの蜜を味わいたい。」

一回ぐらい、いっしょに出かけるのなんて、どうってことありません。

けれど、シジミチョウなんかと出かけたりしたら、アゲハチョウ仲間から笑われるかもしれません。

そこでシャナは、こんなふうに言ってみることにしました。

「あなたとわたしじゃ、羽の大きさがぜんぜん違う。いっしょになんて、飛べやしない。」

ルーは、ひきさがりません。

「ぼく、できるだけ速く羽を動かすよ。」

シャナは苦笑しましたが、ルーが気にする様子はありませんでした。

「わたし、あなたに合わせて飛んだりしないわよ。」

「かまわない。じゃ、明日ね!」

そう言って、ルーは飛んで行ってしまいました。

更新日:2013-07-16 22:19:12

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