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小説

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奇跡は起こらなかった

この地区の検死担当医であるダナス医師は寂れたビルの四階の部屋に到着した。
「先生、こっちです」
 担当の警官が彼を案内した。不審な遺体があるのだという。
 
 部屋の中央に男が横たわっている。辺りは血の海だった。
「こりゃ酷いね!」
 長年異常な死体を見せられていたが、ここまで血にあふれているのは初めてだった。

 死体に近寄り、ざっと見回す。
「ああ、これのせいか」
 ダナス医師は男に近寄り、そのぱっくりと割れた首を観察した。左頸動脈が完全に切断されている。これなら、この派手な現場もうなずける。この傷なら、あっという間に血が噴き出て、当の男は数秒で意識を失ったことだろう。あまり苦しまずに済んだことが、せめてもの慰めか。

 彼を死に至らしめた凶器は、考えるまでもなかった。血の海の中に、無数のガラスの破片が散らばっている。彼の開いた首のそばにも、鋭く尖った大きなガラス片が一つ、突き刺さっていた。

「これはあれだ。隕石の衝撃波で窓ガラスが壊れ、その破片が落っこちて来る時、運悪くこの男の頚動脈を切ってしまったんだろう。別に、不審な点はないんじゃないか?」
 ダナス医師は担当の警官に言った。

更新日:2013-07-18 11:08:28