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舞台袖、バニッシャーの暇潰し

 状況を整理しよう。
 範囲は、私が“交易都市エーデリア編”と名付けたあの惨劇の記録から、その五日前までのこと。
 トルーレンでの不死鳥インフィ二ティとの戦いの後、フリードとエイディ=ヴァンス、そして彼らに連れ添った十数名の特務師団兵たちは、一路帝都グランバーグへと帰還した。
 その翌日、グランバーグを盗賊王アディスが襲撃。フリードがそれを退けたものの、特務師団宿舎及び訓練用道場は壊滅的な被害を受けた。
 さらにその翌日には、初代白騎士のヘレンがグランバーグに潜入。今度は特務師団宿舎ではなく、帝王が座す帝国軍本部に、大きな被害が与えられた。

「きゃはっ。ヘレンも大胆なことするわね。大好きよ、こういうの。」
「左様ですか。……して、突然何をされているのです?」
「見て解らない? この惨劇のシナリオを整理してるのよ。どうすれば、全員が生き残る事が出来たのか、とかね。」
「出番が無いとは言え、暇なことをなさる。紅茶でも淹れましょうか?」
「お願いするわ。頭使いそうだから、砂糖は多めに、ね。」

 ヘレンは帝王と交戦し、深手を負いながらも何とか脱出に成功した。
 ……まぁ、本当はそれだけの話では無いのだけれど、その真相は何れ語られることだ。今は伏せておくとしよう。
 ヘレン襲来の翌日、例の展望台の最上階でフリードは、デュレイスからエーデリアで起きようとしている冒険家協会幹部の謀反に関する情報を受け取った。

「……狡い手よね。“アディス”を名乗る全く知らない人間が現れた直後にそんな情報を受け取ったら、フリードはもう、エーデリアに向かうしかない……。フリードの死は、あまりにも強固な運命によって決定付けられている……。」

 フリードを助ける機会は、この後にたった一度だけ。ゼンカはそれを逃したけど、そうね。来世にもう一度、上手くやれば……助けられるかもね。
 フリードは即日、エーデリアへと出発することになるが、彼はその直前に、一人の友と出会っている。
 ……それが、エイディ=ヴァンス。フリードはここで、エイディから“伝言”を受け取った。その伝言は、エイディがその妹――フライアへ宛てたもの。それによってフリードは、エーデリアへと向かう途中で、トルーレンに立ち寄る事になるのだ。
 つまり彼を救える唯一の機会が、その辺りにあると言う事。

「でも、本気でフリードを救おうとしたら、フリードをトルーレンの町に監禁しておくしか無かったでしょうね。ここまで状況が進んでしまっていると。」

 “あの魔女”も何とか道中時間を稼いだりして頑張っていたけれど、でも時間をずらす程度の努力で変えられるほど柔らかい壁じゃあ無かったと言う事。
 しかし時間を遅らせたお陰で、ゼンカはエーデリアで起きる事件に立ち会うことが出来た。それは結果的に彼を苦しめる事にはなったけれど、アディスやミレーユなど、何もしなければ死ぬはずだった多くの駒を、見事に生還させた。

「あぁあ、私にもちゃんと登場人物としての枠が残ってれば、色々とフラグを弄って遊んでやるのに……。」
「お茶の用意が出来ましたよ。砂糖は多めです。」
「ありがと。……うん、甘い。素敵ね。」
「紅茶が甘いので、御菓子にはレモンパイを用意してみました。」
「あら。ちょっと気が利き過ぎるんじゃないの? だから大好きよ、ユイツ。」

更新日:2009-03-01 23:00:26

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