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Episode:01「日常クライシス」(前)

LIFE 外伝

Episode:01「日常クライシス」

 1月11日、土曜日。
 今日はもう午前の授業を終え、後は放課となる為、俺こと直井朋也は残る半日、気の向くまま時の流れも忘れてだらだらうとうとして過ごそうと思っていたのだが、その思惑は脆くも崩れ去る事となった。
 これを聞いて、大抵の奴はその目論みを阻んだ張本人は、俺の妹こと直井裕香だと推測する事だろう。いつもの事だ。普段ならその推測で大正解である。
 だがしかし、今日に関してはそうではなかった。
 生徒相談室に俺は連れ込まれて――
 俺の正面に座る、担任の富樫教諭(♂)の顔は実に苦々しげだ。
 両手を組みながら、富樫教諭は言う。
「直井朋也、今日どうしておまえが呼び出されたかわかっているか?」
「あんたもしかして、とうとう結婚でもするのか」
「違う! 結婚なんぞせんし、もしそうだったとしてもどうしておまえ1人だけを呼び出しておまえにだけ報告せにゃならんのだ!」
 意味不明な事に、富樫教諭はずいぶんご立腹な様だ。訳がわからない。
「じゃあ、どうして俺は一体全体、何の罪で今こうして担任に拘束されているんだろう」
「おまえの日頃の行いを鑑みれば、自然と答えは浮き出てくる筈だろう!?」
「わからないな。俺はちゃんと、殆どのテストで満点を叩き出しているし、そうでなくても9割5分はマークしている筈だ。どうして俺は連行されたんだ?」
「……直井、確かにおまえの成績は良い。他の生徒と比べても段違いに良い。そこは認めてやろう」
 だがな、と富樫は言い、
「だったら何なんだ、この授業の欠席日数の多さは!」
 富樫が持っている紙片には、どうやら俺のこれまでの授業の出欠記録が記載されている様だ。
「せっかく成績が良くても、これだけ授業怠慢を繰り返していたら、その評価が覆される事になるんだぞ、もったいないとは思わんのか!」
「テストで良い成績さえ取れば教員側としても文句は無い筈だ。俺は授業に出る事に特別意味は無いと思うし、自分1人で勉強した方が遥かに効率が良いし、そもそも、あんた達教師側から見ても俺みたいな不真面目な生徒は授業に出席していない方が進行が楽で良いだろう」
「そういう問題じゃないんだ、直井」
 急に落ち着きを取り戻した富樫が続ける。
「いくら頭が良くたって、授業に出なくてもいいという訳ではないんだ。授業に出る事にそもそも意味があるんだ」
「どんな意味なんだ、今すぐ教えてくれ、10字以内で」
「無茶を言うんじゃない!」
 何を興奮しているんだろう。さっきから、何か特殊な感染病にでも罹患してしまったかの様な異常なハイテンションぶりだ。どっか抗菌滅菌処理が施された特殊施設に隔離した方がいいんじゃないか?
「授業でしかわからない事だってあるだろう。教科書を読んでいるだけではわからない様な事が」
「例えば解剖学とかならまだその言い分もわかるけど、数学や英語なら参考書を読んでいた方がずっとわかりやすい」
 その代わり、化学の実験は今までサボった事が無いし、体育は日頃の運動不足を解消する為に割と出ているつもりだし……何が不満なんだ。
 富樫は眉をひくひくさせながら、次にこう言ったのだ。
 それは、俺にとって驚愕の台詞だった。
「いいのか、直井。特待生でいられなくなっても」
「……!?」
 歯を食い縛る。こいつめ、ここでその事を盾にしやがるか。卑劣な奴だ。
 特待生と言うのは、わかる人も多いだろうが、一応説明しておくと、入学試験時に成績優良と認められた生徒が、授業料全額免除だったり、半額免除だったり、入学金免除だったり、多種多様な施しを受けられる制度である。この学校は私立である為その制度が存在し、俺は第1種特待生として認められている。

更新日:2013-04-21 23:01:34

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