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第0話 プロローグ

 その日、世界はもしかしたらこの一年の中で最も「優しさ」で包まれた日だったのかもしれない。
 眠りについている間にプレゼントが届く家もあれば、国によっては大型連休さえ設けられ、親戚一同が集う。
 日本にとっても例外ではなく、恋人たちはどこか幸せそうに寄り添い、子供たちもまるで自分たちが月面に降り立ったかのように浮足立ち、それを見守る大人たちもどこか優しげな空気に包まれている。
 そう、今日はクリスマスイヴ。
 とはいえ、それこそ千差万別。これだけ多くの人が存在する大地なのだから、幸せな空気に充てられてひがみ根性丸出しで過ごす人もいれば、いつも通りに仕事する人だっているし、あるいはどこかで涙にくれている人もいるだろう。
 それでも、時間は平等に流れるように、クリスマスイブは訪れ過ぎていく。
 この穏やかな空気が目が覚めると一変してしまう、だなんてことは夢にも思わずに。
 「突拍子もない与太話だ」そんな言葉が実際に聞こえてきそうだ。似たような感想を抱いた人は、きっと大勢いらっしゃることだろう。
 しかし、「想定外」という言葉に対して、まるでアレルギー体質のように反応する今日この頃においては特に、明日大地震が起きないだなんてことを、誰が確信を持っていえるのだろうか。誰が、明日自分が死なないと言い切れるだろうか。
 もちろん、正直乱暴な理屈付けだと、感じないわけでもないし、そもそも、「想定」しないことは「予想」にすら行き着かない。
 特に、今日のような日には。
 そして日は暮れ、多くの子供たちがそわそわとした気持ちで自分の布団にもぐりこみ、繰り返し繰り返し寝返りをうつうちに、気付けば寝息を立て始め、楽しみにしていたクリスマスの朝がやってきた。

更新日:2013-03-21 02:08:51

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