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第3話「放送室」

まだ誰もいない校舎に
テンポの速い足音を響かせる。


ガチャッ

少し重い扉を、
勢いよく開けて


『ごめん!
 間に合った?!』


挨拶もそっちのけ。

真っ先に、時間と

目の前で椅子に座る人の機嫌を気にした。


「間に合った?じゃねーだろ。
 もう5分すぎてるんですけど」
『いやぁ…
 もうしわけない』


静かに怒りのオーラを振りまく神埼と
二人きりの放送室。

彼の不機嫌に気付かないフリをして
壁際に鞄を置いた。


「あとはよろしく」
『はぁー?』


冗談っぽさは全くなく
キャスター付きの椅子で、
脱力感満載に伸びをした。



「遅刻したの誰だっけなー?」


わざとらしく語尾をのばして
あたしの失態を強調する。


『あーもー...

 ...おはようございます。
 これから4月28日、朝の放送を始めます』


穏やかな口調で
淡々と、プリントの台本通りの言葉を読み上げる。


『よーし』



すべて言い終えると
マイクを切り、再びBGMの曲の音量を上げた。


「珍しく噛まなかったな」
『やればできる子なのよ』


明確に見える、ボケとツッコミ。
...春日によると、だけど

そんな関係が
心地いい。

男子が苦手なんて、嘘みたい。


「あー俺今日
 再登校じゃん」
『だって神崎
 家までどんくらい?』
「15分」
『いーなー
 あたし30分かかんだよね』

他愛もない会話を
ただ、続ける。

どんなにくだらないことを言っても
必ず聞いてくれる。

そんな神埼は
すごく、温かい人だと思うんだ。


「卯月ー!CD持ってきたー!」


強くノックをしながら、そう叫んだ。

朝、給食時間にかけてほしい曲を回収する。
そのために毎日きて、そのおかげで仲良くなった子

本山 夏樹。


『きやがったな夏樹』
「おうよ」





放送担当の期間は、格クラス2週間。

それは、あたしにとって
どうしても忘れられない時間になるのです。

更新日:2013-03-18 18:27:12

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