• 10 / 84 ページ

~Side直人~

バタン


いつもとは違い、ゆっくりと扉を閉めた。

放送室前の廊下には
既に、人がいなくなっている。


「...はー...」


下駄箱までそう距離はないけど
力が抜けて、その場でしゃがんだ。

放送室の中からはまだ
篠原たちの声が聞こえる。


──...何やってんだろ、俺。


心の中で呟く。

すると勝手に流れ出す
ついさっきの記憶。


「変態かよ...」


後戻りできない程に、侵食されてる俺が
自分でも笑える。

俺、いつのまに
染まったんだろ。


「なーに座り込んでんだ?神埼」


ぽんっと肩を叩かれて、目の前を見上げると
担任の、もっちゃんがいた。

岩本で、いわもっちゃん、で
もっちゃん。


「...いや」
「悩み事か?あ、さては
 色恋沙汰だな」


楽しそうに俺を見る、もっちゃん。

いつも決まって、黒いジャージをきている。

英語の先生なのに。


「色恋...言い方古くね?」
「いいなあ、青春はなあ」


...人の話聞けよ。


「さよならー」
「ん?あ、おう!」


もっちゃんを通り過ぎて、下駄箱に上履きをしまう。

外履きのスニーカーに足を入れながら
また、ため息が出た。


「色恋...」


そう呟きながら、ふいに目が、
勝手に放送室の外扉をうつしている。


「...だから
 変態かっつの」


中にいる篠原の、後姿。

周囲に誰もいないのは知ってるはずなのに
動揺を隠すように、伸びをしながら空を見上げた。



「...雨降りそう」



更新日:2013-03-25 18:14:02

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook