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高校や東大の研究センターの横道を抜けると、
歩いて、15分ほどで、
広い芝生や樹の生い茂(しげ)る駒場公園だった。

「このへんにも、いい公園があるんだって、
しんちゃんに見せたかったのよ」と美樹が信也に話す。

「本当だ。立派な公園だね」

「あれが日本近代文学館よ」と、美樹は、グレーの
コンクリート造(つく)りの建物を指さした。

「あっちの建物は、前田侯爵邸(まえだこうしゃくてい)とかいって、
100年くらい前に建(た)てられて、当時は、
東洋一の邸宅と、うたわれたんだって」

「そうなんだ。あとで行ってみよう」

信也はポケットから、アップルの携帯型デジタル
音楽プレイヤーのアイポッド(iPod)を出した。

「おれ、美樹ちゃんのことをイメージして、
歌を作ったんだ。
それをギターの弾き語りで、
これに入れてきたんだけど、
ちょっと聴(き)いてもらえるかな。
タイトルは、迷ったんだけど、
『MY LOVE SONG』にしたんだ」

木陰(こかげ)のベンチに座(すわ)って、
少し照(て)れながら、
時々、美樹の澄(す)んできれいな目(め)を見ながら、
信也はそういった。

かなり、驚(おどろ)いたらしく美樹は、
一瞬、言葉が出なかったが、
頬(ほほ)を紅(あか)らめながら、
「うれしいわ。光栄だし。ぜひ聴かせて」といった。

アイポッドから、切れのいいカッティングの
アコースティック・ギターのイントロが流れて、
その弦の音によく合う、信也の硬質で乾いた歌声が
聴こえてきた。歌の調子はアップテンポのブルースであった。

歌が終わるころ、美樹の目には涙が光(ひか)った。

信也も目頭が熱くなった。信也は、美樹をやさしく抱きしめた。
そして信也は決心をした。

美樹のためにも、この東京でやっていこうと。
純たちと、ライブハウスやバンドをやっていこうと。

≪ MY LOVE SONG ≫

こんなに 夕日(ゆうひ)が きれいなのは
きっと みんなへの 贈り物なんだろうね

こんなに 世界が きれいなのは
きっと みんなへの 贈り物なんだろうね

あんなに あの娘(こ)が きれいなのは
きっと みんなへの 贈り物なんだろうね

なのに なにを 悩(なや)んでいるんだろう
自由に 選(えら)んできた この道なのに

なのに なにを 戦っているのだろう
自由に 選んできた この道なのに

なんで 強く 生きられないのだろう
自由に 選んできた この道なのに

なんで あの娘を 抱きしめられないのだろう
自由に 選んできた この道なのに

Hoo、Hoo、MY LOVE SONG、LOVE IS ALL
(おお、おお、僕の愛の歌、愛こそすべて)
Hoo、Hoo、MY LOVE SONG、LOVE IS ALL

≪つづく≫ 

更新日:2013-03-01 19:48:42

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