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7章 臨時・社内会議 (その3)

「それでは、村上部長、よろしくお願いします」

ヘッド・クオーター(本部)・主任で、会議の司会役の
市川真帆(いちかわまほ)が、
微笑(ほほえ)みながら、そういった。
市川真帆の、どこか、知性的な美貌(びぼう)は、
社内でも、独身男性の注目であった。

ディスプレイには、『ヘッドクオーター(本部)』と、
いくつもの『事業部』の関係図が映(うつ)った。

「ごらんのように、現在、事業部は、洋菓子店、ベーカリー、
レストラン、複合カフェ、喫茶店、居酒屋、ライブハウス、カラオケ店など、
12事業部あります。
なぜ、このように、多種の業態を、事業展開しているのかといえば、
外食産業のお客様のニーズ・需要(じゅよう)が、多種多様であるからです。
わたくしども、ヘッドクオーター(本部)の仕事も、日々変化していく、
お客さまのニーズ・需要のリサーチ、顧客分析が重要であります。
ただいま、社長からありました『優しさと公平さ』や『若さ』を忘れることなく、
仕事に邁進(まいしん)するならば、目標の1000店舗も、5年間くらいで、
達成できるのではないかと考えています。わたくしからの話は以上です」

今年で、31歳という若さの、いつも礼儀正しく、
優雅(ゆうが)な物腰(ものごし)の、部長の村上隼人(むらかみはやと)が、
短めに挨拶(あいさつ)を終(お)えた。

「それでは、みなさまからの、忌憚(きたん)のない、ご意見など、
よろしくお願いいたします」と市川真帆(いちかわまほ)がいう。

「おれは、あらためて、社長の、芸術的なお考えに、感銘を受けました」
と、挙手(きょしゅ)して、川口信也が、話を始めた。

「おれも岡村も高田も、3人は、はじめは、
ライブハウスの経営ができるということで、
入社を決めたようなものなんです。
そのライブハウスも、現在都内に5店舗あって、
全国に100店舗を展開していくという計画ですが、
おれには、どうも、外食産業とライブハウスとの
関係といいますか、事業展開の真意といいますか、
意味するところが、よくわからないのです。
ご説明いただければと思います」
と川口は、緊張しているらしい、たどたどしい口調でそういった。

「はいはい、わたくしが、お答えします」と、ゆっくり、挙手をして、
社長の弟で、副社長の森川学(まなぶ)が、人懐(ひとなつ)こそうな笑顔で、
向かい側(むかいがわ)にいる川口信也を見ながら、語(かた)りはじめた。
森川学は、今年で43歳だったが、独身であった。

「モリカワでは、外食産業もライブハウスも、広(ひろ)い意味で、
芸術活動と考えてるのです。
モリカワの経営理念にある、常に、顧客(こきゃく)の満足と感動、です。
社長も、わたくしも、洋菓子店とかの、スイーツやベーカリーの経営を、
そういう気持ちでやってきたから、ここまで大きくやってこれたんです。
企業経営も事業も、芸術活動と思ってやっていれば、
大きな間違いもないだろうし、顧客のニーズや需要を、
見失うこともないだろうし、成長や発展を続けていけるのだと思います。
広い意味では、わたくしたちは、みんな芸術家、アーチストなんじゃ
ないでしょうか。坂本龍馬も、アーチストっぽいですよね」

≪つづく≫ 

更新日:2013-03-01 20:54:49

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