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第8話「伝えたい」

さっきから
心臓のスピードが落ちない。

ベンチに座った距離が予想以上に近くて
気付かない程度に、武田がいないほうに
体を傾けた。

「・・・ドイツ・・・ってさ
 木下、好きな奴とか
 いたりすんじゃないの?」
『ぅえっ?』

ただ今
鼓動がフルスピードです。

「あー・・・いや
 そしたら離れたくないだろーなーって・・・」
『・・・・・・』

それを本人の口から言われると
無性に複雑な気分。

『・・・いるよ、好きな人』
「・・・ほー」

それは自分なんだって
分かるはずないよね。

だって小学校以来
初めて、今日まともに話したんだもん。

『でもあたし
 弱音吐かないって決めたから』

本当は
辛くて仕方ない。

こんな風に言ってるのも
ただの、強がり。

「・・・木下、つえーよな」
『・・・え』

武田の言葉に
心の奥がキュンとなった。

強い?
あたしが?

・・・そんなわけないのに。

『・・・あたし』

どうしよう。

大好きだ、この人。

『あたし
 武田が・・・』

“好き”

後に続くその2文字が
あたしの心を、締め付ける。

「・・・ん?」
『あ・・・ううん。
 なんでもない』

けど

伝えて、なんになるの?

どんな結果でも
すぐに、さよなら。

あたしの恋の結末は
その一つしかないんだから。

『チョコバナナ
 もう一個食べたいなーって思ってさ』

転校するまでの2ヶ月間
あと何回、自分の気持ちを誤魔化せばいいんだろう。

「・・・本当
 お前、かわんねーな」
『え?』
「昔っから
 チョコバナナ大好きだったじゃん」

そんな思いがけない発言に
あたしは、戸惑った。

『昔のこと
 ・・・覚えてるんだ?』

武田には
どうでもいいことかと思ってたのに。

過去なんてもう
きれいさっぱり忘れてて

全く記憶の片隅にも
止められてないって。

でも
そうじゃないの?

「・・・当たり前じゃん」

もう
やだ、この人。

消したいのに
どんどん、あたしの心を侵食してく。


武田にとっての“当たり前”が
あたしには“特別”なの。

ねえ、武田。





大好きだよ。

更新日:2013-01-16 16:03:44

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