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第10章 〈3〉



 ウィルの部屋を出て、控えていたニナに、イリヤを呼ぶよう伝言を頼んだ。

 イリヤにだけは、協力してもらわなければならない。

 ログノール海軍が何ケ月かけても探し出せていないものを、あたしが船で行って探せるわけがない。
 それに船では容易に連れ戻されてしまう。


 アレアナン海まで約八千キロ、ユーリは半日で帰って来たけれど、あたしは、きっと丸二日以上と考えた方がいい。

 でも、出発さえしてしまえば、追いつかれる心配はない。普通の船ならどんなに急いだって二十日はかかる。カエが今ここにいるということは、能力者の船なら一週間もかからないで着いてしまうのかもしれないが、それでも竜のスピードには敵うはずがない。
 ウィルたちが追いつくまでに、島を探し出せるかもしれない。


 部屋に戻り、ポシェットの金貨をポケットに入れ、クレアの用意してくれた水と食べ物をカバンに詰め込む。


――そうだ、あれも……。

 引き出しから、メジャースプーンを取り出す。
 誰にも見つけることのできない島。きっとこれが「鍵」となる。
 



「絶対に、戻ってきてください」
 クレアが涙目であたしに抱き着く。

 ドアがノックされ、クレアが用心深く扉を開けた。

「あの、イリヤ様のことで……」
 ニナだ。クレアに合図して、ニナを部屋に入れる。

 ニナが、あたしの旅支度を見て目を丸くした。

「イリヤは?」

「すみません、イリヤ様は、ちょうど今、船で南航路の調査に向かわれたそうです……」

「船!? どうして? アイオロスは?」

「いえ、急にログノール海軍の方の臨時の穴埋めに入ったらしくて、港へも馬で出掛けたと……」


 やられた――

 そんな急に、しかも竜を置いて調査なんて、あまりにも不自然すぎる。

 ウィルの仕業だ。
 イリヤがあたしを乗せられることは、ログノールで彼にも見せている。

 イリヤをあたしから遠ざけ、しかも連絡を受けても戻れないようにしたのだ。


 どうする……?
 調査が終わるのを待つか……? いつまで……?


 恐らく、彼はしばらく帰らない。もし帰っても、また別の邪魔が入るに違いない。


 あたしは、ブーツに足を入れ、カバンを掴んだ。

「行ってくる。戻ってくるわ、ユーリを連れて、必ず。ニナ、しばらくは、あたしが部屋にいるように振るまってもらえる?」

 にっこり笑って二人に手を振り、あたしはバルコニーから部屋を後にした。



更新日:2013-09-26 16:55:38

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