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豆腐系男子2


「というかさ、美鷹からキスしちゃえばいいじゃない」

お昼休み。対面で雑誌を読んでいた親友が唐突にそんなことを言うもの
だから、口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。

「それは…イヤ」

小声で呟くと、親友は「なんで」と雑誌から目を離した。

「その…ファーストキスは好きな人からしてほしい…」

親友はしばらく目をパチパチした後に、吹き出し、「あははは」と笑い
出した。図らずもショックだ。

「そんなに笑わなくても…」

萎縮する私を、親友は更に笑っていく。こんなんでも馬が合うから不思
議なものだ。

「ごめん、ごめん。だって…あははっ。天下の吾妻嬢がなかなかに乙女
チックだったから………でもまぁ、わからなくはなないよ」

そうしてまた笑いだす親友を軽く睨みつけると、おもしろい顔だと、親
友はさらに笑って雑誌に興味を戻した。

「でもさぁ…あんたの彼氏って、あんたのこと妄想だと思ってるんでし
ょう」

「うぅ…ん」

 曖昧に返事しても周知の事実だ。親友は雑誌を最初からパラパラ巡
る。

「なのにデートに誘って。待ち合わせ場所に来なかったりしないの?」

「ああ、それが大丈夫なのよ。なんか妄想の産物だとは思ってるみたい
なんだけど。一応。もし私が妄想の産物でなかったらって言う場合も考
えてるみたいなの。もし私が本物で、待ちぼうけを食らわしたらって…
女の子との約束をすっぽかすなんて、雀くんのメンタルじゃできない
の。それで待ち合わせ場所で私と会って、吾妻美鷹がここに来るわけな
い、目の前にいるのは妄想だって…思うみたい。まぁ彼にとっての大正
解は、「誰も来ない」っていう結果らしいけど。私は行くから。だから
一応デートは成立してるのかな…」

 シュレディンガーの猫の気持ちがよくわかる。目の前に出されるまで
は、シュレディンガー(姫百合雀)にとって猫(私)は死んでる(本物)か生
きてる(妄想)かわからない。実際には死んでいる(本物の)はずなの
に…。




更新日:2012-08-11 17:06:19

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