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過去に縛られた者

次の日、二人は朝から家を出る準備をしていた。
ちなみに、音無は風呂場(脱衣所は無い)、岩沢はリビングで着替えていた。
「まさみ〜、もういいか〜?」
「あぁ、いいぞー」
そんな掛け合いをしてから音無はリビングに戻る。
持っていく物は特になく、彼らの左手薬指の銀色に光るリングだけがあった。
「さぁ、行くか」
「…………あぁ」
二人一緒に家を出て、玄関に鍵をかける。
キーは音無がポケットに入れて、二人は手を繋いでアパートを後にした。
「まさみ…大丈夫か?」
「だ…大丈夫っ」
彼女の手は微かに震えている。
以前に一度家に行ったことがあるとはいっても、改めて自分を殺す要因となった両親に会うと考え、恐怖しているのだ。
「おやぁどうも音無さん」
アパートの前を掃除しているおばさんと鉢合わせする。
「あ、おはようございます」
「どうも…おはようございます」
二人は咄嗟に挨拶を返し、頭を下げた。
それを見ておばさんは、声をあげて笑った。
「お二人はいつも仲良さそうでいいわね〜。
私の夫もそれくらいイイ男だったらね〜…」
そんな言葉を聞いて音無は苦笑し、岩沢は頬を赤らめて俯いた。
そんな彼女を見て、おばさんはさらに笑う。
「ごめんなさいね?お出かけの邪魔しちゃって。
ほら、いってらっしゃ〜い」
そそくさと離れると、二人に向かって手を振り始めた。
二人は互いにそっぽを向きながら歩みを進めた。
いつの間にか彼女の震えが止まっていた。
それに気づいた音無は、心の中でおばさんに感謝した。

***************

目の前には貼り紙が貼られている、2階なども無い小さな一軒家。そして貼り紙には『鬼』『何処かへ去れ』等の中傷が書かれていた。
音無は一瞬、本当にココなのかと疑問に思ったが、表札には『岩沢』と書いているので、間違いないだろう。
「鍵が開いてればいいんだけど……」
岩沢は呟いて玄関のドアノブを握る。
その手を、音無が掴む。

「二人一緒だ」
「………うんっ」

二人は息を合わせ、ゆっくりノブを回す。
幸いと言うべきか鍵は掛かっておらず、最後までノブを回すとドアが開いた。
全ての物が乱雑に置かれている。
「…………行こう」
「うん……」
二人は靴を脱ぎ家に上がると再び互いの手を取り握り締め、奥の部屋へと歩みを進めた。

更新日:2012-09-29 00:27:41

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