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再会

「ん……ぅ」
目を開ける。
小鳥の囀りが聞こえる。
音無は欠伸をして辺りを見回す。
「まさみ……」
一緒に寝ていたはずの相手が居ないことに気づき、立ち上がる。
部屋を出て、祝勝会をやっていた一階へと向かう。
「おう、起きたか結弦」
日向の声。
その周りには笑顔を浮かべている者、吐きそうな者など様々だった。
「竹山君、あの子は今どの辺り?」
「もうすぐここに着きます。
……あと、僕のことはクライ」
「会うの久しぶりだね〜」
ゆり、竹山と大山が何か話している。
音無は何がなんなのかわからず首を傾げる。
「どうした、結弦?」
日向が音無の肩に腕と共に体重を乗せる。
「いや、これは一体…」
各々が何かせわしなく動いている。
音無にはまったく心当たりがないために、余計不思議そうだった。
「あぁ…言ってなかったよな。岩沢には朝話したんだけど。
えっと実は……」
「秀樹!来たよ〜っ!」
事情説明が行われる直前にユイが玄関から叫ぶ。
日向は「今行く!」とだけ言うと、音無の手を引っ張って玄関へと向かう。
「おい日向!?」
「来りゃわかるって」
ニカッと笑顔浮かべる日向。
音無は益々意味がわからなくなり、また首を傾げた。
「久しぶりだな……本当に」
玄関を出ると、岩沢が誰かと話していた。
ちょうど彼女が壁になり、相手の姿を見ることができない。
「あ、結弦」
岩沢が体を退けつつ、後ろに居た音無に振り返る。
そこに居たのは、車椅子に座った銀髪の少女。
かつて、死んだ世界で『天使』と呼ばれていた者だ。

「……結弦、久しぶり」

その少女――立華奏はニッコリと笑みを浮かべて彼に手を伸ばす。
「奏……」
音無は、そのか細く華奢な手を握る。
白く簡単に壊れてしまいそうなその腕は、まさに天使そのものだった。
「少し前に手術を終わらせて、日本に帰って来たんだよ。
実は昨日の野球も観戦してたんだぜ?」
後ろから聞こえる日向の声。
懐かしい少女の姿、多少痩せてはいるが、立華奏であることに変わりはなかった。
音無は笑みを浮かべると、彼女をそっと抱き締めた。
壊れないように、優しく。
「おかえり、奏」
「……ただいま、結弦」
立華の瞳から、一滴の涙が零れ落ちた。
空は、満天の晴れ模様。
二人は少しの間、互いを抱き締め続けた……。

更新日:2012-09-27 15:54:41

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