• 44 / 488 ページ
 ここに来て数日がたった。

 王宮にいた頃とは全く違う暮らしに戸惑うことは多かったけど、それでも慣れればどうと言うことはない。

 最初、料理は近くの山里まで出かけて行って買っていた。
 歩いて一時間以上かかるけど、作れないのだからしょうがない。
 
 でもそのうち料理店のおばさんと仲良くなり、料理の方法も教わって不自由することは無くなった。
 

「はい、リオン、あ~んして?」

「美味しいっ! 兄様の料理はいつもとっても美味しいですっ!」

 リオンがほっぺを押さえるようにして言う。

 ああ可愛い!!
 料理を覚えて良かった!!


 リオンは掃除は上手かったけど料理は下手だった。
 なので料理は主に俺が作っている。

 リオンは今まで料理をしているところは一回も見たことが無かったらしい。調味料の存在も知らなかった。
 そんなリオンにいきなり料理が出来るわけがない。

 でも俺は厨房のおばさんに可愛がられていたので少しはイメージがわく。
 簡単なものならすぐに出来るようになった。

 今のところリオンの役目は単純な野菜切り作業や味見係だ。
 野菜を一生懸命切っている姿も可愛いが、やはり一番の見所は味見しているところだろう。

 小さい唇をスプーンに寄せる姿はもうとんでもなく可愛いいし、鈴の音のような声もとてもかわゆい!!

 教育係エドワードの「どこの新婚さんですか?」という冷たい空耳がまた聞こえてきたような気がしたけど可愛いんだからしょうがないだろうっ!!
 

 可愛い弟の喜ぶ顔が見たくて、俺の料理の腕はどんどん上達していった。




 
 ほとぼりが冷めて国境の警備が緩んだらすぐにここも後にして国外に行くつもりだったけど、弟と楽しく暮らすうちにその気持ちが揺らいでいった。

 里のみんなは身分を隠している俺たちにもとても優しいし、ここからなら豆粒のようにだけど城も見える。
 生まれ育った愛する城や家族を完全に断ち切ることはいくら今が幸せでも出来がたかった。

 あの事件があるまでは離れるなんて想像も出来ない理想の家族だったのだ。

 ……ここでリオンとともに父母や妹、城の皆の幸せを祈りたい。
 いつのまにか俺はここで暮らしていく道をずるずると選んでしまっていた。



更新日:2013-09-30 14:45:17

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)