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小説

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第4章

 カルサールの五月は晴天が多い。今日も、雲ひとつない青空が窓の外に広がっている。
 バルコニーの窓は開け放たれていて、ピットスポルムの花の香りを乗せた風が、あたしの鼻をくすぐった。


「ねえ、これって、あとでじゃだめ?」

 淡い黄色のオーガンジーやらぴらぴらしたレースやらにがんじがらめにされながら、物憂げに窓の外を見やる。
 こんなにいい天気なのに、外にも出られず、もう一時間以上身動きさえしていない。
 あたしに巻きつけた布の先端を抑えているクレアと侍女の二ナが申し訳なさそうに肩をすくめる。

「あんたの『あとで』は約束にならないからだめ。一週間前からずっと追いかけてやっとつかまえたのよ! 全く逃げてばっかりなんだから! これ以上のばしたら、仕立屋が首をくくるはめになるわ」
 フィオナがあたしの足元で、なにやらてきぱきとメジャーをのばし、布やあたしのあちこちのサイズを測りながら、顔も上げずに答えた。
 そしてそばでペンをとっている弟子のデザイン画をチェックしながら、クレアたちにきびきびと指示をする。

「ああ違う違う、そこはもっと短く、ダンス用だから。そうそう、くるぶしが隠れるくらいに」

「ダンス?! 聞いてないんだけど」

「聞いてなくてもカルサールの行事では必ずあるの! ニナ、そこの金糸の織物を取って。そうそれよ、サラの襟元にあててみて。ああ、だめね、サラの白い肌が映えない。こっちは帯に」

 あんまりにも忙しそうで、遊びに行きたいとはいいだせない。
 
 
 もうすぐ、あたしは十七の誕生日を迎える。
 十七といえば、この国ではちょうど成人の節目にあたり、父は、「成人の儀」と遅ればせながらの「王女のお披露目」を兼ねて執り行ってしまおうと思っているらしい。
 ただでさえパーティの主役になるのは好きではないのに、「王女のお披露目」ともなると、ただの見世物になるとしか思えない。
 あたしは着なれないドレスを着て、ひきつった真っ赤な顔で舌を噛みながら、各国の王族やら貴族やらが集まっているホールのバルコニーから「ご挨拶」をするわけだ。
 そのためのドレスを作るために、朝からずっとこの状態が続いている。


「サラ、コルセットは?」
フィオナが顔を上げた。

「そんなもん、持ってると思う?」
あたしの言葉に目を見開く。
「女の常識よ?! ありえないわ」

「ママだってしてたの見たことないもん」

「あんたねー、コレット様がどんだけスタイル良かったか知ってる? おんなじ体形だなんて思ってないわよね。あの完璧な身体と言ったら……。出るところはちゃんと出てるのに、ウエストなんてあんたの足くらい細いのよ。あんたも細さじゃ負けてないけど、メリハリってもんがなきゃドレスは着られないの!」

 あんまりな言いようだ。フィオナのサバサバした性格は大好きだし、お姫様扱いされるのはあたしも望んでいないけれど、王女に対して「あんた」呼ばわりする上、ここまで軽口をたたける人は多分この人とアッシュくらいしかいないだろう。(アッシュは「お前」だけど)

「しょうがないわねー、じゃ、コルセットも作らせるか」

 フィオナは、あたしのおばあ様の弟の孫、つまり「はとこ」にあたる。昔から服飾に関してはものすごくこだわりがあり、王宮にいたころから自分のドレスのデザインを仕立屋に任せたことは無い。
 独自の着こなしで流行を生み出し、カルサール中の女性のあこがれの存在だった。
 十七でログノールに渡って――カルサールの王族は大抵十代でログノールに留学することになっているのだ――服飾について学び、その後も各国をまわって、貴族たちのファッションを研究してきた。
 カルサールに帰ると、さっさと家督を弟に引き継ぎ、王位継承権を捨て、町に店を開いて、この国で初めての「ファッションデザイナー」としての地位を生み出した。
 王族の変わり種と呼ばれながらも、デザイナーとしても独立した女性としても彼女の人気は高く、この国で彼女を知らない者はいない。
 あたしの母とは年も近く、ログノール留学以来の友人で、そのころからよく母のドレスを手掛けていたらしい。
 商用でログノールを訪れるときは、必ず伯母の家に顔を出していたので、あたしにとって彼女は年の離れた姉、といったところだ。 
 

更新日:2013-08-19 22:31:51