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小説

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プロローグ

 あたしは、誰かに両側から手を引かれ、必死に逃げていた。
 
 崖の上まで走ったところで、不意に片側の手をつないでいた誰かが叫び声をあげ、倒れこんだ。
 もう片側から腕を引っ張られたが、足が倒れこんだ誰かの下敷きになって、立ち上がれない。
 
 腕を引っ張っていた誰かがあたしに覆いかぶさり、抱きしめた。

 生温かい赤い液体があたしの足を濡らしていく。

 あたしを庇(かば)う肩の向こうに男が剣を振り上げるのが見える。それを止めるように割り込んできたあたしの大好きな人が、後ろから他の男に斬られて倒れた。

 彼の名前を叫び、母に助けを求める。

「ママ!! ママ!!」
「サラ様、出ちゃいけません!!」

母の姿を探すが、あたしに被(かぶ)さった体がそれを邪魔する。

「その子に手を出さないで!! お願い、何でも渡すから、その子だけは助けて!!」

「ママ!! ママ!!」
 母の声を聞き、あたしを押さえつける誰かの腕をすり抜けようともがく。

「だめです!! ああっ!!」
 一瞬だけ体が自由になり、立ち上がろうとすると、あたしの背中に何かものすごく熱い衝撃が走った。

 そして再び同じ腕に抱きすくめられる。

「いやあぁぁ!! サラ!! サラ!! だめよ! サラを殺さないで!! 私はどうなってもいいからサラを助けて!! みんな消えて!! その子に近寄らないでぇっ!!」

 あたしの視界が真っ赤になっていく。
 背中が燃えるように熱い。

 髪も服も手も地面も、どんどん赤く濡れて、そして突然、辺りが静まった。

 あたしを抱きしめていた体がずるりと地面に倒れ、真っ赤な手だけがあたしの腕をつかんでいる。
 振り向くと、赤黒く濡れた砂利の上で、あたしに向けられた目が、不自然に固まっていた。

 あたしはその手を両手で握りしめ、彼女たちの名前を呼んだ。

 助けを求めて周りを見回す。

「……ママ? ママ!! ママ!!」
 誰もいない。
 男たちも母親も、誰もいなくなってしまった。残ったのは、あたしと動かなくなった人たちだけだった。

 つないだ手がどんどん冷たくなっていく。

「いやだ、いやだ、みんな、ママ! ママ!! だれか!!」


 あたしは、気を失うまで、ずっと泣き叫び続けた。


更新日:2013-08-20 16:14:03