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オーバーハング

「第1竜騎兵師団の突入開始。
続いて、重竜兵部隊は地上の反抗する敵を薙ぎ払え」

魔王が真っ黒いワイバーンの背中で地図を広げつつ言う。
地図には黒い影が細かく蠢いている。
超高度投影型魔術の一種で、本来は戦艦のCIC等に使われる物で、所謂、大型ディスプレイと考えても良い。
それを、魔王は手持ちの地図でやってのけたのだ。
しかも、本来は複数の高等魔術士が集まって漸く、師団規模の塊が動くのを察知するのが精いっぱいだが、魔王は自身の無限と言っても過言では無い魔力を使い、兵士一人一人、しかも、敵の陰まで映しているのだ。
場所は三国の中立地帯として貿易が盛んで世界で最大規模の港町『ウォータープール』。
魔王が宣戦布告をしてから僅か2週間が経ったこの地に飛龍が数十万頭飛来した。
事前に、時間にすれば3日前に魔王は『ウォータ―プールを制圧する。
その時、残って居る者が居れば、敵とみなす。
死にたくなければ、逃げろ』
と宣戦布告したのだ。
そして、飛龍の前下には飛龍と天津国の航空機部隊によって破壊された町並みが広がっている。
街の10km四方は非常に高い城壁がそびえたち、城壁の外には土龍の群れが取り囲んで、逃亡する敵兵を皆殺しにしていた。
海側からは魔王が掻き集めた上陸用舟艇や小型高速船が兵を乗せて上陸せんと進んでいる。
上空では飛龍に乗った戦闘機乗りが飛び、上陸援護をしていた。

「さてと、そろそろ、上陸部隊を突っ込ませるか」

魔王はニタリと笑い、下を見る。
下には先頭集団が湾岸に到着した頃だった。
そして、その先頭の舟艇群にはテレサ達が乗っている。

「凄まじい光景っす」

テレサはズズンと腹の底に響く爆発音を感じつつ、恐怖に引き攣る頬を軽く揉む。
前の舟艇には丸々一隻ジャガーノートを乗せている。
余りにも重すぎるのでジャガーノートを乗せて精一杯なのだ。

「信じられない」

シールドマンが呆然とした声で呟く様にして言う。

「信じるしかないでしょう。
この光景、この景色、この風、この匂い。
不愉快です。
あの女、全てを滅ぼすまで、世界の果てまで戦争をする気なのです」

ヨリコも手にしているAK74Mの銃把を強く握りしめる。

「と、言うか、私等、いつの間にか、天津国の士官っすけど、私等、何の勉強もしてないっすよ」

ザッパンザッパン波に揺られる上陸用舟艇の周りに居る兵士達を見ながらテレサは言った。

『良いんだよ、別に。
トラ・トラ・トラ!!
全員強襲を敢行せよ!
トラ・トラ・トラ!!
強襲敢行だ!!
諸君等の奮戦に大いに期待しているぞ!!
諸君等への勇気が逆賊共を滅ぼす事だろう!
我が国の存亡は諸君等の双肩にかかっているぞ!』

上空から一斉に飛龍が鳴いた。
そして、上空が真赤に染まる。

更新日:2012-02-06 13:21:54

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