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red cap girl

「おばあさんが……おばあさんが……!」
 少女は蹲り、呪文のように呟き続ける。
 夜が深く染み込み、森の中には焚き火の明かりしか存在しなかった。
 その焚き火の横で猟師は考えていた。
 この少女を殺したほうが良いのか。生かした方がいいのか。
 少女には、老婆以外には身寄りがないらしく、結局自分が引き取る以外にない。
 しかし、自分には少女を養う余裕などない。その必要性もなければ、してやる義理もない。ならば殺すか、人買いにでも売るか、このまま見捨てて立ち去るか。
 立ち去るのは、その後飢えて死ぬであろう少女にいくらか罪の意識を感じる。人買いも探すまでが大変だ。自分で犯す、という選択肢もあるが、この歳の女に興味はない。なら、自分が一番慣れていることにするしかなかった。
 泣き疲れて眠った少女に近づく、右手には剥ぎ取り用のナイフを握って。
 さあ、せめて感じるまもなく殺してやろう。
 ナイフを振り上げたとき、
「ねぇ、どうして私のずきんはこんなに真っ赤なんだと思う?」
少女がスクリと起き上がった。突然のことで手が止まる。
「どうして悲鳴をあげてからあんなに無事だったんだと思う?」
 少女は立ち上がり、自分の手からナイフを抜き取った。
「ねえ、どうしてあんな大きなバスケットに小さなケーキを二個しか入れなかったんだと思う?」
 そのナイフをくるくると弄ぶ。
「ねえ、身寄りがないなら、私はどこでケーキを作ったんだと思う?」
 シュンシュンとナイフが素早く宙を舞う。洗練された動き。
これは――
「ねえおじさん」
 少女はニッコリと、見るだけで微笑むんでしまいそうな笑顔で笑う。
「死んでよ」



 死ね死ね死ねしね! この下衆がッ! 小さい者を食い物にしやがって。自分のことしかない下衆がっ! 死ねッ! まるで自分に責任がないように振舞いやがって! お前はナイフで粉にされるのがお似合いだ! 見捨てるなら、なんで私を助けた! なぜ希望を与えた後に絶望させる!? なんで、なんで! どうして私を助けてくれなかった? この下種がッ! 死ね死ね死ねッ! 屑が!  お前のせいでまた絶望した! おまえのせいだ! おまえのせいだァッ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしね死ね死ね死ね。



    誰か、私を、助けてよ。



 少女は猟師のものだった銃や服、食料をバスケットの中にいれる。これで当面は生きられる。
 桶に貯めた”赤い液体”に、自分の頭巾を漬ける。少し肉片が混ざってつけにくい。鮮やかなその色は、まだしばらく私をキレイにしてくれるだろう。

 ねぇ、どうしてわたしのずきんがこんなにも真っ赤なんだと思う?



 少女は助けを求めている。
 少女は愛を求めている。
 少女は差し伸べられる手を待っている。

 ねえ、あなたのその手は誰に差し伸べられていますか?

更新日:2011-10-20 21:42:21

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