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・・・開放されたひととき・・・



煎れたての珈琲を口にする。
「美味しい~」
久しぶりの感触に心が和む。

  ≪ こういう時間・・・忘れていたな ≫

裕美は、この少しの時間に癒されたいと想う心を全て預けた。
バックからクシを取り出し、一つに結わえていたゴム紐を解いて長めの髪にあてた。
少しだけ変わったかな・・・
それ程は変わらなかったが、それでも少しだけ満足した。
化粧気の無い顔
ちょっと口紅をさしてくれば良かった。
  ≪ あ・・・そうそう  持ってたかも ≫
バッグの中を探すと、ひとつ奥に取り残されたようにちょっとだけ色の入ったリップがあった。
それを取り出しつけてみた。
顔立ちは結構整っているその表情は、いくらか明るい印象と変わった。
色褪せたワンピースもシックなイメージで映えて見える。
  ≪ 不思議・・・ ≫
裕美は、嬉しくなり顔の表情に柔らかさを増した。

先程の店側の人が珈琲を継ぎ足しに来てくれた。
「珈琲~いかがですか?」
その時、初めてその人の顔を見た。
女性かと思っていたが、男の人だった。
本当に優しそうな笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。 いただきます」
裕美は、カップに注がれる様をじっと見ていた。
その人は、裕美に向かって
「綺麗ですよ」
そうひとこと残して奥へ戻っていった。
裕美は、今の言葉が夢なのか錯覚なのか耳を疑った。 自分の願望がそう聴こえさせたのかもしれない。

熱い珈琲は、芯から裕美を温めた。
気持ちも柔らかくなり、顔の表情を一層優しくさせた。
  ≪ ふぅ~たまに・・・来よう ≫

裕美には、こういう時間が全く無かった。
夫も何処へも連れて行ってくれなかった。
休みでも、一人でゴルフに行ってしまう。
毎日毎日姑の世話で一日が終わっていく。
明るい陽射しを浴びる時が全く無かった。
心は荒み笑顔が無くなった。 イライラ感が募り姑が憎らしくなリ、睨みつけるように見つめる。
食事の味付けもその気持ちのまま作ってるせいか醤油の味だけだった。優しさがその中には無かった。
子供が居れば・・・そんなことも望んだことがあったけど授からずに今に至ってしまった。
裕美は寂しかったのだ。

本当に寂しかったのだ。



更新日:2011-10-17 11:48:23

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