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「記-さけび-憶」 3

[山形総合病院]



『溺-いつわり-愛』 8参照



幼少期から成人を迎えようとする今まで、自分を息子としては行き過ぎの愛情を注がれていた

京介自身もその理由として、それとなく祖母から聞かされていた。



自分を捨てた男の名前をそのまま付け、その身代わりのように愛されてきたことがとても腹だたしいのが本音ではあった・・

だが、母、愛美は普通の精神状態ではない・・・祖母曰く、「貴方の存在が愛美を生かしている、もし、貴方がこの世に生まれてこなかったらお母さんは死んでいた、当然、貴方もこの世にはいないのよ・・時間はかかるかもしれないけど理解してあげて欲しい・・」



そんな恩着せがましい言葉に京介はうんざりしていたのが本音だった・・



いつも見舞いに行くと、まるで恋人を待っていたかのように甘い声を出し抱きついてきて濃厚なキスをしようとする・・・

昔はそれが普通だと思っていたが、何時の日か親と行う行為ではないと気付き始めた・・

だが、母は精神を患った病気である、物事の否定は一番よくないと医者からも言われ我慢をする日々が続いていた、やがて母の行為はエスカレートし自分の体を触らせ、京介の下半身に手を伸ばすようになってきた・・



京介は困惑しながらも、何とか逃げ出し体の関係を結ぶことはなかった・・



愛美は元トップ女優、年齢を重ねても当時の美貌やプロポーションは左程変わりが無いほどの美人であった

思春期の京介にとっては母親とは言え性的な行動を取られると下半身が反応しないとは言い切れない程のものがあった・・故にいつもこう思っていた



「母さんは病気なんだ、俺を昔の恋人に重ねている俺を愛している訳ではない・・」



そう思うと悔しさと虚しさで一杯であった・・・



愛美の本当の想いは定かではなく、また、京介自身も愛について飢えていた・・



親らしいことは何一つされた事もなかったが、京介は無意識に愛を求め、尚且つ、何時の日か愛美を理想の女性として作り上げていたのも事実であった・・・



小川 京介は母の入院する病院への見舞いに向かっていた・・



病院のロビーに入りいつも通りエレベーターのボタンを押した



「カチ」



エレベータの表示を見上げると母親の階からエレベーターが下がってくるのを見た



「特別病棟に誰かが行っている・・珍しいな・・先生かな・・」ポツリと呟いた



病院内でもこの特別病棟に入院しているものは少なく、エレベータに特殊な鍵を差し込まないとその階で止まらないのである。世間で言うVIPと言われるものばかりが入院している病棟であり、母、愛美の他は数えるくらいしかいなかった



エレベーターを待っている間、京介は何か不思議なものを感じ取った・・



背後からじっと見つめられているような視線・・その視線はとても冷たく、背筋がゾクッとするようなものを感じていた



「誰かいるのか?」



京介は後ろを振り返った・・・そこには人影はなくいつもと変わりのない病院の風景だった・・



「気のせいか・・」



再び、エレベーターの方を向いたとき、一瞬だが人影が見えたような気がした



「ん?」



直ぐに辺りを見渡したが人影はなかった・・



「気のせいか・・」



だが、その視界に見えた人影は脳裏に鮮明に残っていた、髪が長い女の子であった・・

その娘は下を俯いているように見えていたが明らかに自分を直視していた、という感覚があった

何故か悲しげでありながらも誰かを待っているかのようにも感じた・・



その感覚に不思議なものを感じた・・・


更新日:2011-09-15 10:42:35

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