• 1 / 54 ページ

プロローグ

自室に戻って一息ついた後、僕はちょっとした孤独を感じた。
ほんの二年の間に、僕が友人達に向ける視線は随分変わった。
人間とは孤独な存在である、などとしたり顔で言う奴らがいるけど、そんな安易であってたまるものか。孤独なときもあれば、孤独でないときもある。安直な絶望にすがりついて、悩むことをやめたところで、そこからどんな進歩が生まれるというのだろう。得られる果実は欺瞞でしかない。結局のところ、何一つたしかなものはないのだ。
確率的な世界の中で、随時、より勝算の高いと思われる可能性に賭け続けることで人は生きていく。
だけど、それはあまりにも日常的に行われる賭けだ。いつ、どこでその可能性に賭けたのか、ほとんど覚えていられない。どの時点のどの選択を後悔すればいいのかわかったものじゃない。
だから、それは必然的に訪れた結果であり、受け入れるしかない流れだったのだろうと思う。だが、それでも僕は考えずにはいられないし、考えるのをやめようとも思わなかった。きっと、同じような問題はこれからも僕の前に現れるはずだから。
とにかく、ひとまずの断層は渡りきったのだ。
僕は変わらないものを求めて携帯電話を操作する。
近田の声はいつも通りだった。読書に興じていたところを邪魔したようだ。
「トシと会ったよ」
声に徒労感が混じってしまう。その徒労感を近田は敏感に感じ取ってくれた。
「そりゃまた……。どんな様子だった?」
「たいして会話を交わしたわけじゃないけどね。変わっていなかったよ」
「そうか。なんとも言えないな」
短く応じる声にはトシに対する複雑な思いが滲んでいた。
「暇なんだろう。飲みに行かないか?」
「お前と一緒にするな。俺はいつでも忙しい。でも、そうだな。あと十ページくらいで読み終わるから、付き合ってやってもいいか」
何だかんだ言っても、付き合いの悪くない近田だった。
「今から迎えに行くよ。誰か誘うか?」
「いやあ、どいつもこいつも忙しいからな。無理だろう。時間も時間だし」
 時計を見たら十一時を回っていた。
「またお前と二人だけだなあ。やっぱり暇人だ、近田は。便利で助かるけどさ」
「人のことが言えるか? あいも変わらずグダグダ遊び呆けている癖に」
 でも、僕は変わったのだと思う。あえて主張はしなかったけれど。とにかく、今夜はトシを肴に飲むことにしよう。

更新日:2011-07-23 05:24:39

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook